第五章 トリスタニアの休日
第七話 狐狩り
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男を見る。
「さあ、あなたがここにいる理由をお聞きしてもよろしいですか……リッシュモン殿?」
「ほう、私がここにいる理由? 私の職務には芝居の検閲も含まれているのですよ? それが理ゆ――」
「トリステインの情報を売るのも……ですか?」
アンリエッタが顎先に指を当て小首を傾げると、同じ様にリッシュモンが首を傾げる。
「はて、何のことですかな?」
「……ここであなたと会うはずのアルビオンの密使は、全てをしゃべり今はチェルノボーグ監獄にいますよ」
「ほう……」
アンリエッタの決定的な言葉に、しかしリッシュモンは余裕の態度を崩さない。それどころか楽しげな笑みさえ浮かべている。
「ふむ……姿を隠していたのは私をおびき出すためということですか」
「そういうことです」
「参考までに聞きたいのですが、私を疑いになった切っ掛けはなんだったのですか。うまく隠せていたと思っておりましたが」
アンリエッタの顔に、寂しげな表情が浮かぶが、それは直ぐに溶けるように消えてしまう。
「わたくしに注進してくれた者がおりました。あの夜、手引きをした犯人があなただと」
「……そんな者が」
「何故、あなたはこんなことを……。王国の権威と品位を守るべき高等法院長が国を売るようなことを……幼い頃、わたくしをあんなに可愛がってくださったあなたが……なぜ……」
「くっ、はっはっは……やはりあなたは子供ですね。好意と愛想の違いが分からないとは」
「そう……ですね」
口の端を曲げて笑うリッシュモンにアンリエッタは小さく頷く。
今まではよかった。
騙されても利用されても被害を受けるのは自分で済んでいただろう。
しかし……。
もう……それではすまされない。
自分は女王だ。
王が騙されれば……利用されれば……それは自分だけの問題ではない。
だからこそ、二度と騙されないため、利用されないため、真実を見抜く目を、揺るがぬ心を持たなければならない……。
そのためには、今まで甘受していたものを捨てなければならないだろう。
許されていた甘さを捨てなければならないだろう。
切り捨てる非情さを持たなければならないだろう……。
……良かったですわね高等法院長。
あなたが記念すべき第一号です。
厳しい顔のアンリエッタは厳しい顔でリッシュモンに向き直り、指を突きつける。
「高等法院長、女王の名においてあなたを罷免します」
アンリエッタに責められながらも、リッシュモンには動じるようすはない。それどころか睨みつけてくるアンリエッタに対し肩を竦め首を振ってみせた。
「ほう……罷免されると。さて、それではどうしましょうか」
椅子から立ち上がったリッシュモンは舞台を背にする
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