第九十五話 恋人のカードその六
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「まことにです」
「痛い目を見るんですね」
「そうした人をどれだけ見て来たことか」
速水は深刻な顔になって咲に述べた。
「性格が一変した人も見てきました」
「失恋で性格まで変わりますか」
「それまで明るく自信満々だった人が」
「暗くてですか」
「全く自信のない」
「正反対の人になるんですね」
「そうもなります」
こう話すのだった。
「そうした人もです」
「見られたんですね」
「そうでした、自殺する人すらいますから」
「失恋で」
「そうです、絶望と苦悩のあまり」
それによってというのだ。
「自ら命を絶つ人もです」
「そういえばナイロン開発した」
「ウォーレス=ヒューム=カロザースですか、彼は確かに自殺していますが」
ナイロンと聞いてだ、速水は即座に答えた。
「また違う理由で自殺しています」
「失恋じゃないんですね」
「元々鬱病でして」
それで長い間苦しんでいたという。
「妹さんも亡くなって」
「それで、ですか」
「自殺していますので」
それでというのだ。
「失恋とはです」
「また違いますか」
「自殺していませんが中原中也は有名ですね」
この詩人の名前をここで出した。
「あの人も失恋していますね」
「そうでしたね、かなり揉めて」
「三角関係にもなり」
「凄かったみたいですね」
「そして在原業平も」
六歌仙の一人そして絶世の美男子として知られる彼もというのだ、彼の話は昔男ありけりで知られる伊勢物語で有名だ。
「左様でしたね」
「失恋してですね」
「旅に出ていますね」
「そうでしたね」
これが伊勢物語のはじまりとなる。
「誰でも失恋しますか」
「そして深く傷つくものなので」
だからだというのだ。
「気をつけて下さい」
「心からですね」
「そうです、そして」
それにと言うのだった。
「傷付かない様にされて下さい」
「それは絶対ですね」
「心の傷は身体のそれよりも深刻です」
この言葉もだ、速水は真剣な顔で出した。
「先程申し上げた通りに一生のものとなりかねず性格もです」
「変わる位なので」
「ですから」
その為にというのだ。
「何度も申し上げます」
「慎重にですね」
「ことを進められて下さい、そして実際に失恋しても」
「傷付かない様にですね」
「して下さい、失恋は非常に恐ろしいものです」
知っている、それ故の言葉だった。
「酷い暴力を受けるのと同じかそれ以上のトラウマにさえなりますから」
「暴力にも匹敵しますか」
「私はどちらの経験もある人も見てきましたが」
「トラウマは深刻ですか」
「深い闇を抱えています」
こう言うのだった。
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