第二章
[8]前話
寿子は般若の顔になってだ、電話の相手に対して怒鳴った。
「いいって言ってるでしょ!切るわよ!」
「!?」
富男も驚いた、見れば。
その頭に一瞬角が見えた、それはまさに鬼の角であった。
だがそれは一瞬でだった。
電話を切るとだ、寿子は笑顔に戻って彼に言ってきた。
「ゲーム再開しましょう」
「あっ、うん」
富男はまだ驚いたまま応えた。
「それじゃあね」
「そうしましょう、それでおやつだけれど」
寿子は笑顔のまま言った。
「マフィン買ってあるから」
「それ食べるんだね」
「紅茶でいいわよね」
飲みものはというのだ。
「それじゃあね」
「三時になったら」
「ええ、一緒にね」
「おやつと紅茶をだね」
「楽しみましょう」
こう話してだった。
後は普通の寿子だった、だが。
富男はその夜由佳に携帯でこの話をすると彼女はこう言った。
「はい、本当に滅多になくてしかも一瞬ですが」
「怒るとああなるんだね」
「般若になるんです」
こう彼に言うのだった。
「怒気が凄くて」
「桁が違うね」
「それで角もです」
「生えるんだね」
「そうなるんで」
「怒らせないことだね」
「滅茶苦茶怖いんで」
それ故にというのだ。
「いいですね」
「うん、怒らせない様にするよ」
「そうして下さい、お父さんもお母さんも知らないんで」
怒った時の寿子はというのだ。
「くれぐれもです」
「怒らせない様にするよ」
「そうして下さい」
こう言うのだった、そしてだった。
富男は寿子を怒らせない様にして交際していった、交際から結婚して家庭となったが生まれた息子は成人してもこう言った。
「お母さんが怒ったところ見たことないよ」
「そうか、それは幸せだな」
「幸せって」
「世の中みたい方がいいものもあるんだ」
自分そっくりの外見の息子の悟にだ、初老となって白髪になった富男は言った。そして彼にくれぐれも彼女を怒らせない様にと言うのだった。今も穏やかな彼女を。
彼女の角 完
2023・4・22
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