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思い出の卵焼き
第一章

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                思い出の卵焼き
 サラリーマンの佐々木順一は卵焼きが好きだ、それで朝よく妻の美鈴にも作ってもらって食べている。一七六位の背でがっしりとした体格で黒髪をスポーツ刈りにしている。長方形の顔で眉は鉤爪型できりっとした切れ長の目と引き締まった薄い唇を持っている。
 その中でだ、彼は憮然として言った。
「最近卵高いのがな」
「困ってるのよ」 
 美鈴は実際にそうした顔で応えた、茶色の髪をショートにしていて小さめの吊り目で頬はすっきりしている。背は一五六程ですらりとしている。
「これがね」
「やっぱりそうだな、卵焼きが食えなくなるとな」
「流石にそこまではね」
「高くなっていないか」
「ええ、安心して」
「そうだといいけれどな」
「あなた卵焼き好きだけれどね」
「楽天相撲は興味なくて卵焼きだな」
 夫は笑って返した。
「野球はあのチームでな」
「私達仙台にいるしね」
「ああ、それだと野球はな」
「楽天よね」
「それで卵焼きだよ」
 相撲は抜いてというのだ。
「それでな」
「卵焼きが食べられなくなったら」
「俺は困るな」
「流石にそこまでは高くなっていないから」
「大丈夫か」
「ええ、安心して」
 時分も卵焼きを食べつつだった。
 美鈴は応えた、朝にこうした話をして順一は出勤した。卵焼きを食べて満足した顔でそうしたのだった。
 兎角彼は卵焼きが好きだった、居酒屋で飲む時も必ず注文するし毎週一回は食べている。そんな夫にだ。
 美鈴はある朝その卵焼きを食べながら尋ねた。
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