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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第87話 アトラハシーズ星系会戦 その3
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星に近い航路を進みますので取り込みはそれなりに可能でしょうが、到底期待できる量ではありません」

 カステル中佐は参謀長に応えると、小会議室中央の三次元投影機を操作して艦隊の補給情報を表示していく。あれほどの激戦にもかかわらず補給艦や支援艦に被害は出ていない幸運があるものの、エネルギー残量は艦隊平均で四〇パーセントをようやく超えるか超えないか。兵装に関しては六〇パーセント以上残っているだけに、これまでの快速航海のいい面と悪い面がはっきりと表れた形だ。

「これは総量を均したあくまでも平均値です。ダゴン星域に向かうには戦闘艦同士でのFASが必要となります。艦の選定と補給量調整は補給部で進めておりますが、作業も含めて五時間は頂きたい」
 十分に訓練してきたとはいえ、敵がウヨウヨしている宙域で五時間も戦闘艦同士が各所で並走するというのは途轍もない危険性がある。パッシブによる索敵に留めている以上、その範囲は極めて狭い。敵を発見したら、即戦闘態勢とならざるを得ない。
「ダゴン星域に入ってからFASをしてはどうです?」
 珍しくファイフェルが口を挟んでくる。確かに言う通り安全宙域まで到達してから実施するのが一番いいのだが……
「戦闘可能で無傷に近い貴重な戦艦二隻、駆逐艦二八隻をみすみす敵地に置き去りにしていいというならな」
 カステル中佐の返答は実に冷淡だった。その名の通り辺境警備の主力にもなる巡航艦の航続力は極めて長い。しかし帝国軍よりも二回り以上小さい戦艦や、戦闘速度と瞬時火力に特化している駆逐艦の航続力はそれほどでもない。ダゴン星域まで現在の燃料だけでは持たないとなれば、当然破棄せざるを得なくなる。貧乏くさい話であるが、残存戦闘可能艦艇が二〇〇〇隻を切っている第四四高速機動集団として、戦える三〇隻の破棄は認めがたい。
「しかし索敵網を広げるのは危険でしょう」
 時間を正確に測るために索敵網を広げれば、帰って敵の注意を引きかねない。さらに索敵艦は片道切符になる。ファイフェルは暗にそれを示したわけだが、ここにいる誰もがそれは理解している。せめてイゼルローンからの増援部隊の存在の可否。望みうるならその進路。それさえわかれば。
 沈黙の帳が下りる中、不意にファイフェルの携帯端末が音を立てる。会議中に集団司令官付き副官の端末がコールされるということは、敵襲かそれに準じる異常事態か。司令官の判断を求めるような事態が発生したということだ。

「司令副官、ファイフェルだ」
 通信相手が下士官なので、尉官で最上位のファイフェルは実に偉そうに応えたが、年齢が年齢なので声もまだ迫力がない。上官が舐められたらおしまいだと、まだ距離感が掴めず必要以上につっぱって見えるファイフェルの仕草に小会議室の面子は苦笑を堪えきれなかったが、ファイフェルの顔色が次第に驚きに
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