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レンズ越しのセイレーン
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Report4 クロト
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   To:J
   Subject:気をつけて

 分かった。あまり無理はしないで。ただでさえアナタの時歪の因子(タイムファクター)化は進んでる。ワタシはアナタが体を損ねてくとこ、見たくない。悲しくなる。泣いてしまう。だから、お願い。――無事で。
                                      Eu
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   From:J
   Subject:ありがとう

 事情を知った上で純粋に他人に心配されたのなんて何年ぶりだろうな。こんな役得があるなら、若い女の子との契約も悪くない。
 しかし、「若い女の子」の中でも君は変わり種だな、ユティ。クルスニクなのにカナンの地に行かないと言いながら、レースには勝ち残らせろと言う。なのにライバルを蹴落とせと言うでもなし、むしろルドガーに積極的に協力している。
 俺としてはありがたいが、ここらで真意を見せてほしいところだ。

 と、自分で移動すると書いておきながら、続けてしまってすまない。結果は後ほどメールする。
 ――ルドガーを頼む。
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 ユティはGHSを畳んで、窓枠に頬杖を突く。

(真意か。正直、一番このデッドレースの最終戦に残ってほしいのはユリウス、アナタなんだけどね。だからワタシに協力するって名目で契約して簡単に死ねない状況を作ったわけだし。真意っていうなら、ルドガーとユリウスの両方がカナンの地出現まで生き延びてほしい。それがワタシの目的達成の大前提だもの)

 ふいに、夜闇の中にあって、まばゆいサーチライトに幾条も照らされたドームが目に飛び込む。
 ――あれがアスコルド自然工場。
 あと15分もすれば降車を促すアナウンスが流れ、20分後にはアスコルド自然工場に列車が横付けされるだろう。

(安心して。他の何を切り捨てても、ルドガーは絶対にアナタの許へ無傷で帰してあげるから)

 誰にも見られない角度でGHSに口づける。ユースティア・レイシィの、最愛の父に誓いを立てる時の儀式。
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