暁 〜小説投稿サイト〜
戦国御伽草子
壱ノ巻
毒の粉

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小さく揺れる輿(こし)の中。あたしは懐から、小さな守り袋を取り出した。



さて、一体これは何なのか。



あたしは権六から、発に届け物を頼まれた。この、守り袋、たったこれだけを届けるのなんて、別にあたしじゃなくてもいいだろうに。



やっぱり、きな臭い。権六も、発も、何か臭うわね。



そっと袋を開くと、中には白い粉が詰まっていた。



見るからにあやしい。何よ、この粉。



ま、大体予想はつくけどね。



織田家の現状と柴田の動向を見れば、バカでも大体の察しはつく。



織田家の現主が織田平脈(おだひらみゃく)様。子が全部で4人。その中で、一番有力とされ、「若殿」と呼ばれているのが発の夫の第三子、宗平(むねひら)様。



なぜ、跡目を継ぐのが長男ではなく第三子なのか。



まず、長男は母の身分が悪い。諸子(しょし)の子だ。だから鼻にもかけられなかった。



次男。母が京の貴族で、身分はいいのだけれど、後ろ盾がない。長男と次男の名前は覚えてないわ。長らく表舞台に出てきていないもの。



三男。宗平様。この人は母が平脈様の正室。後見は佐々(さっさ)家。おまけに宗平様本人が頭脳明晰容姿端麗という全てが完璧なヒト。ま、この人が若殿となるのも頷けるわね。



そして、最後。四男の正良(まさら)様。後見人は柴田家。母は残念ながら側室だけれど、まさに柴田家から出た人だから、身分が悪いわけじゃない。もしも、宗平様がいなかったのであれば、間違いなく正良様が若君となっていたのであろうが、ま、運が悪かったとしか言いようがないわね。正良様が悪いんじゃない。宗平様が突出しているだけなのだ。



柴田、柴田権六道重(しばたごんろくみちしげ)は、柴田家当主で大本山ともいえる人物。しぶとく、狡猾(こうかつ)であり黒い噂もしばしばあるものの尻尾はなかなか掴ませない、らしい。



正良様の後見についている柴田。柴田にとって、宗平様は目の上のタンコブのはずだ。その柴田が、敵ともいえるところにわざわざ娘を嫁に出したのはなぜなのか。



服従の意味ではないだろう。



守り袋の中の白い粉と、宗平様の妻である発。



この粉は九割方何かしらの毒と見て間違いないと思う。いつどのようにして発が若殿に飲ませるのかはわからないけど、妻だもの、隙ぐらいきっとたくさんあるはず。



問題は、あたしが今これを握っているってことなのよ。



そのまま素直に渡せば、いずれ若殿は殺されてしまう。だからと言って渡さなければ、その場で発に見咎められるだろうし、ヘタをすればお手討ものだ。
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