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冥王来訪
第二部 1978年
影の政府
奪還作戦 その5
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は、思わず眉を顰める。
「なんだと……」
マサキは、紫煙とともに深いため息を吐き出しながら、答えた。
「やはり、民族としての成熟度が、驚くべきほど低すぎる……」
KGB大佐はその言葉に赫怒し、顔を紅潮させる。
「何を!」
すだれ頭にある、汗で縮れた不潔な髪をパラパラと乱しながら、体を震わす。
「お前たちが、近代文明に接するには、あまりにも早すぎた」
KGB大佐の怒りは、心の底からメラメラと燃えて、どうにもならないほどであった。



 マサキは、満面に喜色をたぎらせながら、答える。
「では、お前たちの言葉で説明してやろう。
ベルンハルトを犬畜生(サバーカ)、ベアトリクスを牝狼といったが……」
PLFPの兵士たちはKGBの指示がない限り、銃撃してこないことを確かめながら、続ける。
「犬は有史以来、人類にとって与えた影響は計り知れぬ。
畜生の中で、牛馬に比類する存在だ。
また、猫や豚と違い、教育次第でどうとでもできる優秀な畜生だ。
支那人どもも『犬馬の労』と称すほど……」
そっとベルトのバックルを左手で触れて、瞬間移動の準備を始める。
「狼は遺伝的にいえば、イヌのそれとほぼ同等だ。
体格も大きく、知的で警戒心が強い。
言いかえれば、内向的で臆病(おくびょう)であり、人に(なつ)くまでには時間がかかるが……
幼体のうちから人手で飼えば、(なつ)き、犬同様に愛でることもできる。
ひとたび主従関係を結べば、愛玩用の室内犬に比して、その関係は強固なものとなる。
それに犬と狼は交雑でき、数世代でほぼ同化する」
フィルターの間際になったタバコを、足元に捨てて、軍靴で踏みつける。
「そのようなことも分からぬとは……真に蛮人よの。ハハハ」

 白い歯をカチカチ鳴らし、怒りをあらわにするKGBの女大尉。
縛り付けていた美久の腰ひもを手放すと、ギャリソンベルトに付けた鞭を引き抜く。
「言わせておけば、そのような世迷言(よまいごと)を!」
女大尉が、鞭でマサキをたたきつけようとするも、マサキは即座に左手を女の顔面に差し出す。
袖から出したコルト・25オートで、女は眉間を打ち抜れ、その場に崩れ去った。


 銃声を合図に、一斉に、AKM自動小銃がマサキのほうに向けられる。
KGB大佐は、芋虫の様に太い食指で、マサキの胸を指し示すと、号令をかける。
「氷室よ。この男が消し飛ぶさまを見るがよい」
その刹那、兵士たちの持った機関銃や自動小銃が、全自動(フルオート)で連射される。
銃砲は咆哮をあげ、ごうッと、凄まじい一瞬の音響とともに、マサキの影が見えなくなった。
 やがて弾倉の中が空になり、遊底の動きが止まる。
硝煙が晴れ渡ると、血だまりの上に、上半身が血まみれの遺体が力なくうつぶせで倒れていた。

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