第九章
[8]前話
「俺も行く。それが運命なのだからな」
「そうですか」
青年はその言葉を聞いてにこりと微笑んだ。それこそが彼の望んでいた言葉なのであるから。
「それでしたら」
「また命を落としてもいい」
木野は遠くへ駆けていく若者達を見て言う。
「それが運命なら。人の為の礎となるのなら」
「命は惜しくはないと」
「怖い」
しかし木野は言った。
「それは事実だ。しかし」
それでも彼は言う。
「それでも俺は行く。もう迷いはしない」
「では」
「また会うんだろうな」
青年に背中を向けて歩きはじめる。背を向けたままでその青年に声をかける。
「それも近いうちに」
「おそらくは」
青年もその言葉に静かに答えてきた。
「ですが」
「その心信じる」
かつての青年ではない。だからこその言葉であった。
「しかしその前に」
「その前に」
「やることがある。少しな」
「それは一体」
「コーヒーだ」
それが木野の答えであった。
「浩二に頼んだコーヒーを飲んでから行かせてくれ。それでいいな」
「それでしたら」
青年は笑ってその申し出を受けてきた。
「どうぞ。ごゆっくり」
「ゆっくりというわけにはいかないだろうがな。それでもあいつに頼んでおいたから」
「人は皆絆を覚えているのですね」
青年はふと呟いた。
「誰もが」
「人を人にしているのは絆だ」
木野はここで己の右腕を見た。弟の手を。
「それが無ければ人ではなくなる」
「はい。ではその絆を守る為に」
「俺も行く」
彼もまたその場を去った。今青年の後ろでは。三人のライダーが新たな戦いに向かおうとしていた。
仮面ライダーアギト 新しい誇り 完
2007・1・20
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