第二部 1978年
歪んだ冷戦構造
もう一つの敗戦国 その1
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卒業資格が得られなかった。
そして上級学校への進路を険しくさせたのは、基礎学校に入った時点からある留年制度であった。
日本で言えば小学校にあたる基礎学校の1年生で留年などをしてしまうと、そこから評価を回復するのは非常に困難であった。
テオドールは照れを隠すように、頭を掻きむしりながら述べた。
「まあ、俺はBMWのセールスマンか、自動車修理工とかで、いいかな。
学があって、ヘンに頭の固い女より、可愛いお姉さんにお近づきになれたら……」
あのKGBと並び立つと人民におそれられた秘密警察「シュタージ」もない西ドイツ。
テオドールにとって、西ドイツの自由はまぶしかった。
リィズは、笑いながら、エーベルバッハ少年の冗談に応じた。
「もう、お兄ちゃんは変態さんね」
その姿は、いつにもまして蠱惑的で、妖しげであった。
東ドイツ人にとって、西ドイツは文字通り堕落した、廃頽的な文化の咲き誇るソドムの町だった。
町中に立つキヨスクには「PLAYBOY」や「Penthouse」と言った写真週刊誌のほかに、タブロイド紙が並ぶ。
それは、東ドイツの法で禁止されていたきわどい水着姿の裸婦が掲載された、猥褻な週刊誌。
屋台の奥には何十種類もの紙巻煙草や手巻きタバコと巻紙。
ガラスの冷蔵ショーケースには、米国製の炭酸飲料とともに、バドワイザーや瓶詰のペール・エールがぎっしり詰められていた。
ラジオやテレビからひっきりなしに聞こえる、煽情的な報道に、淫靡な歌詞の音楽。
法で組織的な売買春が禁止されている日本とは違って、西ドイツでは売春は事実上合法化されていた。
ハンブルグやケルンといった大都市部に置かれた歓楽街、通称『飾り窓』。
そこでは、劣情をかき立てる下着姿の娼婦が、窓より半身を乗り出して、街を歩く青年を手招きする。
色街の入り口には、厳重な門があって、屈強な男が立っていた。
18歳以下の男性と娼婦以外の女性は入場が禁止されており、大抵の場合は見えるところに派出所がおかれていた。
また、決まりきったように、ソーセージの屋台があった。
そこには、焼きたてのカレーソーセージや、茹であがったばかりのフランクフルトソーセージ。
(本場ドイツのフランクフルトソーセージは茹でて食べる専用のソーセージ)
なみなみと容器に入ったケチャップやマスタードなどが、これ見よがしに置かれていた。
裏通りに行けば、米国文化や英国の文化にかぶれた不良青年たちがたむろする地区があった。
彼らは、革のジャンパーに色褪せたジーンズ姿で、頭をモヒカン刈りにそり上げ、純金製の耳飾りや首飾りをつけ、街を徘徊していた。
夜になると、いずこから現れる、麻薬を売る闇の商人。
アヘン
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