第一章
[2]次話
握手
昭和四十二年阪急ブレーブスははじめてパリーグを制覇し日本シリーズに出場した、その相手は全世界の邪悪をその身に集めた読売ジャイアンツだった。
そのチーム巨人と言われる彼等を見て阪急の監督である西本幸雄は唸った。
「やっぱりや」
「強いですね、巨人は」
「格が違います」
「貫禄もあります」
「あれがずっと強いチームですね」
「そやな」
西本は周りにこう返した。
「ほんまに。うちもリーグ優勝したが」
「それでもですね」
「巨人はより強いですね」
「うちよりも」
「このシリーズ勝ちたいが」
日本一、それになりたいがと言うのだった。
「そやけどな」
「難しいかも知れないですね」
「巨人に勝つには」
「どうにも」
「ああ、やっぱりあの二人やな」
巨人のベンチにいる王貞治と長嶋茂雄巨人が誇る二枚看板を見て言った。
「問題は」
「そうですね」
「一人でも厄介ですが」
「二人いてです」
「どうにもなりませんね」
「知ってはいたけどな」
二人のことはとだ、西本は言った。
「どれだけのもんか」
「それでもですね」
「知っているのと実際に戦うのは違います」
「実際に戦うと」
「その凄さがわかりますね」
「ああ、あの二人以外の選手も凄いしな」
堀内恒夫や柴田勲も見て話した。
「巨人に勝とうと思ったら」
「厳しいですね」
「やっぱりずっと強いチームは違います」
「試合の運び方を知ってます」
「シリーズも」
「いや監督勝ちます」
ここでだ、スポーツ選手としてはやや小柄な背番号十六の男が言ってきた。アンダースローの足立光弘である。
「わしが投げてです」
「巨人打線を抑えるか」
「ＯＮでも誰でもです」
その王と長嶋を見つつ西本に話した。
「わしが抑えて」
「そうしてか」
「はい、絶対にです」
こう言うのだった、強い声で。
「やります」
「自信あるんやな」
「はい、わし等かてプロで」
彼等と同じというのだ。
「ペナントを制したんです」
「立場は同じか」
「そうです、わし等かて強いです」
「そやからやな」
「巨人でもです」
そのあまりにも強いというのだ。
「勝てます、わしが巨人打線抑えます」
「そうしてくれるか、それならや」
西本は足立にその厳めしい顔を向けて言った。
「このシリーズお前に賭けるで」
「やらせて下さい」
足立も強い声で応えた、だが。
チームのセカンドであり頭脳でもある助っ人のダリル＝スペンサーは足立の言葉を聞いてそこに来て言った。
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