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阿古邪の松
第四章

[8]前話
 橋に用いられた、阿古邪はそれを見届けて父に事情を話して申し出た。
「世のことに深く思う様になりましたので」
「だからか」
「出家したいのですが」
 こう申し出たのだった。
「宜しいでしょうか、そして」
「そして?」
「私が今生を終えましたら」
 阿古邪はそれからのことを話した。
「あの方の場所にです」
「太郎殿がおられたか」
「その松の切り株のところにです」
「そなたの亡骸をか」
「葬って欲しいとです」
 その様にというのだ。
「今からです」
「告げておくか」
「はい、そして」
「実際にか」
「今生を終えましたら」
 その時はというのだ。
「その様にとです」
「して欲しいのだな、ではな」
「父上もですね」
「その様に伝えておこう」
 自分達が今いる陸奥の者達にというのだ。
「是非な」
「お願いします」
「それではな」
「これまで有り難うございました」
 最後にこの言葉を告げてだった。
 阿古邪は出家した、そしてだった。
 その生涯を御仏に仕えて過ごし今生を終えるとだった。
 遺していた言葉通り太郎であった松の切り株の傍に埋められた、すろとだった。
「新しい松が生えたな」
「そうだな」
「これは阿古邪殿だな」
「間違いないな」
 陸奥の人々はその松を見て口々に話した。
「それ以外に考えられない」
「間違いなくな」
「ではこの松はな」
「阿古邪殿にちなみだ」
「あの方の名をつけよう」
「そうしよう」
 こう話してだった。
 人々はその松をアコヤマツと名付けた、そしてこの辺りの松全てがそう呼ばれる様になった。陸奥今の山形県に伝わる古い話である。


阿古邪の松   完


                  2022・12・15
[8]前話


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