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阿古邪の松
第二章

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「では」
「これで、ですか」
「お別れです」  
 微笑んでこの言葉を述べてだった。
 太郎はその場を後にした、するとだった。
 遠くに松の影が見えた、阿古邪はその影を見て若しやと思ったがこの時はそれだけであった。
 そして暫くしてだった、阿古邪はその話を聞いて言った。
「名取の橋をですか」
「はい、この度です」
 国司の家の者達に仕える女房の一人が答えた。
「修理をすることになりまして」
「それでなのですか」
「千歳山のです」
 この山のというのだ。
「木を使ったのですが」
「千歳山ですか」
 その山の名を聞いてだった。
 阿古邪は太郎のことを思い出した、実に不思議な笛の名人である彼のことを。それで女房に自分から聞いた。
「あの、まさか」
「まさかといいますと」
「松が」
 あの影のことぉ思いつつ問うた。
「何\かありましたか」
「何故おわかりになったのですか」
 女房は阿古邪に驚いて聞き返した。
「一体」
「といいますと」
「はい、実は伐り倒された松の木のうち一本がです」
 その木がというのだ。
「何をどうしても動かないそうです」
「そうなのですか」
「はい、何人でどうしてもどんな工夫をしても」
 それでもというのだ。
「全くです」
「動かないのですね」
「左様です、それでです」
 女房は阿古邪に話した。
「運ぶ人達も橋を修理する人達もです」
「困っているのですね」
「そうなのです」
 こう阿古邪に話した。
「これが」
「そうですか、では」
 ここまで聞いてだった、阿古邪は。
 その松が何なのか察してだ、女房に話した。
「ではです」
「ではといいますと」
「はい、千歳山に行きたいのですが」
 こう女房に話した。
「宜しいでしょうか」
「その千歳山にですか」
「はい」
 まさにというのだ。
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