(6)弁護士に一任しているので
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「入院生活は悪くないが、メシだけは不満なんだよな」
「そんなこと言って、持ち込んだ食べ物で間食をし放題なのはどうかと思いますけどね。そのうち病院から怒られると思いますよ」
病室のベッド横で丸椅子に座る亀男が、ぼやく泉に突っ込みを入れる。
彼が背負ってきたリュックには日用品や泉指定のおやつが入っており、今は床頭台に置かれていた。
「で、なんだその大きな紙袋は。メロンか?」
椅子の横には、大きな紙袋が二つ置かれていた。
亀男が両手に提げて持ってきたものだ。
「違います。どちらも歴史や政治、法律の本が入っています。片方は私からで、読み終わったやつを適当に詰めました」
「もう片方は?」
「病院の前で例の女性記者から受け取りました。記者さん一同からだそうですよ。『逃げ回っていて暇でしょうから読んでください』というメッセージ付きです」
「……」
泉がベッドから出て、窓のカーテンを開けた。
病院の正門には、無数のメディア関係者と民衆が詰めかけてきていた。議員会館のときよりもさらに増えている。病院側の警備員も大幅に増員されており、もはや攻城戦の様相を呈している。
例の女性記者は相変わらず最前列にいた。その手には、
『山下議員、そろそろ観念してコメントを』
と書かれたプラカードが掲げられている。
「さて、山下さん。押し寄せてきた軍勢は十万、号して百万です。降伏します?」
「三国志か? おかしな言い方はやめろ」
「あるいは『朕はこんなに人気があるのか』とか、とぼけてみます?」
「それもどこかで聞いたようなセリフだな。まあ、いちおう次の手は考えているさ」
「はあ。どうするんです?」
「『弁護士に一任しているのでコメントは控えさせていただきます』で行こう」
「今さらそれは苦しくないですか?」
「うーん。そうかな」
「このまま逃げ続けると、そのうち本当に一個師団くらいの人数に追われることになりそうですよ?」
投了もやむなしでは、と亀男がお手上げのポーズを取った。
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