第二部 1978年
影の政府
熱砂の王 その6
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の胸は、悲壮感で張り裂けそうだった。
苦しい思いに押しつぶされそうな彼女は、思わず基地の外に駆け出していた。
忘れもしない、あの恐ろしいゼオライマーの攻撃。
ソ連極東の巨大都市が、一台の戦術機の攻撃によって、一瞬にして灰燼に帰したのだ。
しかも、前線からはるか後方で、安全だと思われていた臨時首都で行われた、白昼の大虐殺。
死を覚悟して、BETAの溢れる支那に近い蒙古駐留軍に送り出した弟のほうが安全で、首都で政治局員候補として勤めていた義父があっけない最期だったのも、受け入れられない事実だった。
自分があの時、戦って止めていれば、変わったのだろうか。
「ソビエト社会主義の旗の下、全人類が団結すれば、いずれはBETAに勝てる」
いくら、党指導部が作った大嘘と分かっていても、信じて戦ったものが大勢いる。
ソ連の社会主義建設のために、純粋にその燃える血潮をたぎらせて、散っていった幾千万の勇者たち。
長い戦争で見知った顔が消えていくのは、今に始まったことではない。
鋼鉄の意思をもって、『ファシスト』枢軸国と戦ったソ連政権。
あの4年半も続いた『反ファシスト』の『大祖国戦争』も、勝ち抜いたが、その傷跡は30年以上が過ぎた今も癒えていない。
幼いころからさんざん聞かされた政治プロパガンダで、『ソ連は独力で戦って勝った』とされたが、それも今回の戦争で嘘だということが分かった。
ソ連は米国からの食糧購入をBETA戦争前からしていたし、今自分が乗り回しているMIG-21ももとはといえば、米国のF4ファントムの改良版。
着ている被服も、履いている軍靴も、米国からの有償貸与品だ。
結局、自国では、何の技術も設備もない。
あるのは、資源と生産力のない人間と、国費を懐に入れる腐敗役人だけ。
東ドイツやポーランドと敵対した今、経済相互援助会議での、社会主義経済圏の豊かな生活も機能していない。
一度その様な生活を覚えると、昔に戻るのはかなり厳しい。
今、戦おうとしている相手は、口のきけない怪獣、BETAではない。
木原マサキという、生身の青年科学者だ。
彼との対話は、出来ないのだろうか……
いくら、侍という、野蛮な戦士とはいっても、人間なのだから。
彼の愛した女は、東ドイツの戦術機部隊隊長の妹だという。
だから、決して話し合いに応じない相手ではないことは、確かだ。
どうすれば、無益な戦争を避けられるのだろうか……
そんな事を、つらつらと思い浮かべていた時である。
熱帯用の編上靴を踏み鳴らす音がして、彼女は、振り返った。
「フィカーツィア、こんなところにいたの。
いつ、緊急発進の指令が下るかわからないのに、食事ぐらいとったら、どうなの」
そこに
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