第二部 1978年
影の政府
熱砂の王 その5
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を震わせて、全身で息を吐きだした。
「う、あうぅ……」
尋問を見守るKGBの女職員たちの後ろのドアが、開く。
まもなくすると、軍服の上から白衣を着て、円筒型のナースキャップをかぶった男が入ってくる。
「自白強要剤を使え。これを飲ませれば、たちどころに何でも吐くであろう」
「この娘は、自己の思考操作をしているようなのです。
うそ発見器にも反応しませんから……おそらく、自白剤も効きません」
男は、怪しげな笑みを浮かべた後、
「では、残る方法は、一つしかないな。
催眠麻薬0号と指向性蛋白を練り合わせて、口から流し込め」
と、指示を出した。
「あの、セルプスキー研究所で作られた新型麻薬を……
阿芙蓉から精製した催眠麻薬0号を使えと、申すのですか。
催眠暗示でも、鎮静効果のない錯乱状態にある衛士に使う薬などを使って、狂ってしまったら……
支那で投薬3号として売り込んだ際は、意識障害の後遺症を数多く出した薬などを……」
正式名称は、セルブスキー司法精神医学研究所といい、1921年開設された精神医学の研究所である。
スターリン時代から秘密警察と共に強制収容所の運営にも関与し、歴代所長はNKVDの幹部が占めた。
同研究所はKGBと一緒になって、反体制派を『不活発性精神分裂病』と認定し、精神医学を政治的にもてあそんだ。
「上手くいけば、君のことを昇進できるよう、同志長官代理にお伝えしよう」
そういうと、男は女職員に口づけした。
「素晴らしいデーターの収集を楽しみにしているよ。ハハハハハ」
喜色をめぐらせた男は、その場を後にした。
肘掛椅子に腰かけた夏季勤務服姿の女が、わきの女兵士に呼びかける。
「革鞭を持て」
ナガイカとは、カフカス地方に由来する乗馬用の皮の短い鞭で、コサック騎兵が使う鞭とされている。
「同志大尉、これを」
黒髪の女大尉は立ち上がると黒い乗馬鞭を握りしめ、美久の胸目掛けて、袈裟懸けにたたきつける。
「あああっ、ふぁああああ」
身体の奥底から、聞いた事のない様な悲痛な声をあげ、長い茶色の髪をおどろに振り乱しながら、肩と細腰をユラユラとくねらせる。
美久の絶叫を聞いた女大尉は、顔色一つ変えずに鞭の動きを止める。
ずかずかと軍靴を踏み鳴らして、美久に近寄ると、彼女の顎に右手でかけて、ゆっくりと持ち上げ、尋ねた。
「いうがよい。氷室美久。
あのゼオライマーは長大なエネルギー砲を備えながら、核燃料を必要としないのか。
なぜ、なぜなのか」
ゆっくりと、美久は眼を見開いて、きりりと、女大尉をねめつける。
「その秘密は、サブパイロットであるお前が知らぬはずがあるまい」
美久の態度が逆鱗に触れたのであろうか、女大尉は途端に赫怒した
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