第2部
第2部 閑話
テドンでの一夜(ユウリ視点)
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… ぅ……」
すると間抜け女が、何やらもごもごと唇を動かしている。 また寝言か?
「…… ルー…… ク……。 …… 会い…… たい……」
そう呟くと、間抜け女の閉じた瞼にうっすらと涙が滲んだ。
「……ルーク?」
反応がないとわかっていたが、つい俺は今しがた呟いた彼女の言葉を復唱する。
先程とは様子が違う。夢とはいえ涙を流すなんて、ただごとではない。そもそも、ルークとはいったい誰だ?
明らかに男の名だが、きょうだいがいなくなったと言う話は聞いていないし、ましてや父親にそんな呼び方はしないだろう。 かといってルカの名前を聞き間違うはずもない。
そういえば、同年代の友達は皆魔物に襲われたと言っていたが、その中にでもいたのだろうか。
……いや、何を詮索しているんだ。 別にこいつが誰の名を呼ぼうが俺には関係のないことだ。
俺は頭を振って、このはっきりしないもやもやとした感情を振り払う。
ふと、今までかかっていた上掛けが、随分と薄汚れているのに気がついた。 良く見れば、まるでずっと長い間使われていないかと思うほど生地はほつれていて、綿もあちこち飛び出ている。
不審に思い、辺りを見回すと、異変はそれだけではなかった。
ベッドは今にも壊れそうなほど傷んでいて、床や壁は爆撃にでもあったかと言うほど穴がそこかしこに空いていた。 当然天井も穴だらけで、朝の日差しが光のカーテンとなって降り注いでいる。
いつ壊れるかもしれないベッドから降りた俺は、静かに階下に向かった。 当然人が住める状態ではないからか、宿の女主人どころか、人の気配すらない。
外に出てみると、その様子の変わりようは顕著だった。 家々は廃墟と化し、大地は渇ききり、毒の沼となって腐臭を辺りに撒き散らしている。 様々な大きさの白骨は散乱し、もはや人の住める状態ではない。 朝焼けがこの惨状を鮮明に照らし出していた。
この町に来たときに覚えた妙な違和感は、不調もあり曖昧な気配にしか感じられなかったが、どうやら予想は当たっていたようだ。
おそらく夕べ町にいた人間はもうすでに、この世にはいない。
すっかり日が昇り、うっすらと霧がかかっていた場所は日の光によって完全に霧散した。
ひとしきり町を調べ回り、最後に最も怪しいと思われる厳重な建物を調べるため、近づいてみる。 すると、遠くで俺の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
どうせそのうちこっちに来るだろう、そう思い、調査を続ける。 俺の姿をとらえたのか、背中越しにこちらに近づいてくる気配を感じ、タイミングを見計らって後ろを振り向く。
俺の顔を見た瞬間、間抜け女は安堵したような表情を見せた。 その様子を見た途端、なぜか己の心臓が跳ねるのを感じた。
「起きたのか」
「うん。
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