第八話 記憶その一
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第八話 記憶
空汰は夢の中で思い出していた、幼い日々を。
高野山で修行していたが常にだった。
「こら空汰!」
「今は滝に打たれろ!」
「その修行の時だぞ!」
「川魚を獲るな!」
「そやけど腹減ってるさかい」
白い滝の修行の時の着物姿でだ、空汰は先輩の僧侶達に話した。
「しゃあないやん」
「空腹に耐えるのも修行だ」
「そのうちだ」
「まして自分から命あるものを獲るな」
「頂いたお布施ならいいが」
それでもというのだ。
「自分から殺生に関わることはするな」
「それだけは止めろ」
「何があってもな」
「あっ、そうや」
言われてだ、空汰も頷いた。
そしてだ、手にしていた魚を離して言った。
「殺生になるな」
「そうだ、空腹でもだ」
「僧籍にあるなら自分から魚を獲って調理するな」
「それは絶対に守れ」
「いいな」
「そうします、ほな修行に戻ります」
こう答えてこの時はだった。
修行に励んだ、だが。
夜になるとだ、饅頭を盗み食いし。
「待て空汰!」
「饅頭を置いていけ!」
「何処に行ったかと思えば!」
「お前はまた!」
「そやかて今日の食事少なかったさかいな」
懐に入れた饅頭を駆けつつ食べながら話した。
「これ位はええやん」
「いい筈があるか!」
「それは皆で食べるものだぞ!」
「明日のおやつだ!」
「置いていけ!」
「まあそう言わんとな」
空汰は逃げつつ食べた、そして追いかけてくる僧侶達から逃れてだった。
白く顔の舌全体を覆う長い髭を生やした立派な僧服と袈裟を着た老僧のところに行くとだ、笑って声をかけた。
「じっちゃん、こんばんは」
「空汰、またか」
僧侶はやれやれといった顔で空汰に応えた。
「盗み食いか」
「まあほんのお茶目で」
「仕方のない奴じゃ、皆にはわしから言っておく」
「いや、捕まったらな」
「その時はか」
「大人しく罰受けるわ」
こう言うのだった。
「そうするわ、それに皆の分は置いてるし」
しっかりと、というのだ。
「わいは五つ貰っただけやで」
「余っていた分をか」
「そうしただけやしな、一個あるさかい」
見れば手にその一個があった。
「これじっちゃんの分な」
「くれるのか」
「ほいこれ」
笑ってそれで僧侶の手に渡してまた言った。
「あげるわ」
「仕方ないのう」
「それでじっちゃん何してたんや」
「星を見ておった」
僧侶は隣に来た空汰に答えた。
「実はな」
「じっちゃん星見やからか」
「うむ、天の龍のな」
「というとわいのもかいな」
「空汰、お主は死ぬ」
星達の動きを見つつ話した。
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