第六十六話 泳ぎながらその十三
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「よく聞くわ」
「あの頃のことは」
「もう打線は全然打たなくて」
そうしてというのだ。
「そのせいでね」
「負けてたのよね」
「投手陣は相変わらずだったけれど」
このことは阪神の伝統の一つである。
「どんな時期もね」
「投手陣はいいんだよね」
「先発も中継ぎも抑えも揃っていて」
「万全ね」
「けれどね」
投手陣は安心出来るがというのだ。
「何しろね」
「打たなくてだね」
「負けが続いて」
そうしてというのだ。
「助っ人はスカばかりで」
「その言葉実感があるね」
「でしょ?そんな風でね」
「兎に角打たなかったんだね」
「それでもよ」
まさにその為にというのだ。
「最下位ばかりだったのよ」
「巨人もまだ強かったし」
「いや、残念だったわ」
富美子はこの言葉を心から出した。
「その頃のことを想うと」
「今の阪神打線だったらね」
「ダイナマイト打線よ」
古来より阪神の代名詞となっている言葉である。
「実はずっとね」
「打線弱かったんだよね」
「そうだったけれど」
「もうここんとこずっとだね」
「十二球団最強の打線だけれど」
それでもというのだ。
「暗黒時代はね」
「打たなかったね」
「そうよ、けれどもうそれも」
その打たない打線もというのだ。
「今じゃね」
「打ちまくってるね」
「そうよ。毎年三割近くね」
チーム打率にしてというのだ。
「打っててホームランも得点もね」
「十二球団ダントツだね」
「そうなったのはね」
まさにというのだ。
「星野さんからよ」
「あの人が監督になって」
「変わったわ」
「一変ね」
「そうなったわ、けれど本当にわかってるから」
薊にあらためて話した。
「暗黒時代のことは」
「そうなんだね」
「阪神もね」
「かつては弱い時代があったってだね」
「ええ、それでね」
富美子はさらに言った。
「その弱さはね」
「相当だったんだね」
「毎年みたいに最下位だったから」
だからだというのだ。
「もうね」
「わかってるんだね」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「その暗黒時代があったからよ」
富美子は言った。
「今の阪神はね」
「強いんだね」
「ドン底を味わったわ」
そうしたならというのだ。
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