第三章
[8]前話
「そやろ」
「はい、そして大阪で」
即ち南海の本拠地である大阪球場でとだ、杉浦も答えた。
「試合をします」
「そこでお前を投げさせるつもりや」
鶴岡は杉浦にこのことも話した。
「そして大阪のお客さん達にな」
「南海を応援してくれてる」
「やっぱりお客さん、わし等のファンはや」
「本拠地に一番いてくれてますね」
「そのお客さん達にお前のピッチング見せてな」
杉浦をマウンドに立たせてというのだ。
「そして勝ちもや」
「見せるんですか」
「そやからや」
「今日はですか」
「負けるのも覚悟してな」
そうしてというのだ。
「お前を投げさせんかったんや」
「今日投げてたらですか」
「大阪でお前を投げさせられんからな」
「そこまでお考えでしたか」
「わし等はプロや」
何と言ってもというのだ。
「プロやとな」
「ただ野球をするだけやないですか」
「そや、お客さんのことも考えてな」
そのうえでというのだ。
「やらなあかんのや」
「そやからやったんですね」
「そや、大阪ではお前を投げさせてな」
「勝ってですか」
「お客さんに喜んでもらうで、ええな」
「わかりました、ほな」
杉浦は鶴岡に確かな顔で頷いて応えた、そうしてだった。
彼は鶴岡が言った通り大阪球場でマウンドに立ちそのうえで勝利投手になった、そのうえで大阪のファン達に拍手を送られた、その後でだった。
野村にこのことを話すと野村は杉浦に話した。
「わしやったらな」
「僕をあそこで投げさせたか」
「一勝は一勝や」
こう言うのだった。
「そやからな」
「ノムやとか」
「そうしたわ、一勝を積み重ねてな」
「勝ち進んでいってか」
「優勝せんとあかんやろ」
「そやからか」
「わしは東京のあの場面でお前を投げさせたわ」
杉浦自身に話した。
「そこはわしと監督の違いか」
「ノムはまず勝ちか」
「ああ、そうや」
こう杉浦に言うのだった、彼はこう言うと着替えて球場を後にした。
杉浦は勝利を喜んで大阪の自宅に帰った、そのうえでまた投げて南海を日本一に導いた。その中にはこうした話もあったのである。
お客さんのことを考えて 完
2022・12・15
[8]前話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ