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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第85話 アトラハシーズ星系会戦 その1
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て、さらに司令官用の端末を操作し、ある程度の目途を付けた。こちらが左後退で移動した分の時間ロスはあるが……

「あと一〇分ほどで、敵将が判断してくれるでしょう」
 俺の返答が意外だったのか、太い眉を少し吊り上げた後、少しばかり髭の生えた顎に手を当て、天井を見た後で、悪戯っぽい顔つきになって再び俺に問うた。
「敵の脇腹に拳を入れてやりたいんじゃが、どうじゃ?」
 それは第二・第三部隊の戦線到着と共に部隊の一部を抽出して、別方向からの攻撃を仕掛けようということか。そうなれば三方向からの砲撃となり、より効率的に敵戦力を撃破できるようになる。だが敵将メルカッツも恐らくはこちらが少数であることを認識した上で別動隊がいると判断し、まずは宙雷艇で第一部隊の背骨と拳となる戦艦を狙ったのだ。
「既にこちらの戦闘可能艦艇数は六〇〇隻を切っています。初手に戦艦を狙われましたので……」
「手柄を部下に譲るのも上官の器量じゃな。わかった。儂らはこのまま大人しくしてよう」
 はぁぁ、と大きなため息をついた爺様は、司令官席にどっかりと腰を下ろし、腕を組む。部隊の消耗は激しい。だがそれでも各艦は連携し、戦列を崩さず防御に努め、軽々に突出したりしない。

 そして一二〇七時。第一部隊の奮闘は報われる。

「敵艦戦列に異常発生。右翼と後衛の一部が後退し、変針しつつあり」
「方位〇一二九時、距離一六光秒に艦艇重力反応らしきものあり。数、およそ八〇〇」
「敵味方識別信号受信。プロウライト准将の第二部隊です……助かったぁ」

 気分を口に出すな、という副長の叱責が吹き抜け越しに聞こえてくるが、まぁそれは御愛嬌だ。艦橋内部の緊張感が少し緩むのは仕方ない。仕方ないが……何故か引っかかる。その違和感が分からなかったが、眉を潜めた俺の顔にモンティージャ中佐は気が付き、モンティージャ中佐からカステル中佐に、カステル中佐からモンシャルマン参謀長に、参謀長から爺様に伝播し……

「第三部隊(バンフィ)は、どこ行ったんじゃ?」
 
 首を傾げて司令部全員が気付いた疑問を、爺様は口にするのだった。

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