第十八話 我が子を喰らうサトゥルヌスその十二
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「車の運転も可能ですので」
「それは有り難いね」
「この国は飲酒運転には厳しいので」
神父は十字にこの事情も話した。
「ではその様に」
「うん、頼むよ」
「はい、それでは」
「では僕はまずは」
無花果を皮ごと食べそれからだった。
十字はグラスの中の赤ワインを飲む。それからこう言うのだった。
「こうしてね。主の血も楽しませてもらうよ」
「是非そうされて下さい」
「うん。ではね」
「このワインも日本のものですが」
「そうだね。イタリアのものではないね」
「山梨のものです」
即ち甲州ワインだというのだ。十字が今飲んでいるワインは。
「どうでしょうか」
「美味しいね。日本はワインもいいんだ」
「はい、少なくとも悪くはありません」
「この国にはいいものが多くあるね」
十字にとっても有り難いことだった。このことは。
そうした話をしてだ。そのうえでだった。
彼等は食べ終えてから骸の始末をした。それからだった。
十字は休息に入った。起きた翌朝には。
世間は大騒ぎになっていた。雪子の無残な骸を見た結果だった。
死体を検死する医者が顔を顰めさせて看護士達に言った。
「酷過ぎるな」
「このホトケさんもですね」
「そうだというんですね」
「ああ。一体どれだけ切り刻まれたんだ」
十字の言う通り八つ裂きどころではなかった。
「百単位だからな」
「そうですね。肉片一個一個に切られてますからね」
「無茶苦茶になってますからね」
「しかも所々なくなってるからな」
切り刻んだ時に屑になり十字達も出せなくなったのだ。それでなくなっていたのだ。
「これはまさにな」
「まさに?」
「まさにといいますと」
「ミンチだな」
そこまで無残だというのだ。
「しかも証拠がな」
「何もないですね」
「指紋や汗もついていない」
「それも全く」
「本当にどいつなんだ」
医師は忌々しげに呟く様に言葉を出した。
「最近こんな事件ばかりだな」
「ですよね。多分同じ奴が殺してるんでしょうけれど」
「こんなことが何時まで続くのか」
「嫌になりますね」
彼等にしてはそうだった。一連の事件は忌々しいものだった。
だが彼等は知らなかった。これが裁きの代行であることに。そしてその骸達が犯した罪のことも。誰も何も知らなかった。それは神のみぞ知ることだった。
第十八話 完
2012・6・6
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