第一章
[2]次話
歯が出ていても
久保永満里奈、丸い顔と目で黒髪を長く伸ばしている女子高生の彼女は自分のクラスで芥川龍之介について書かれた本を読みつつクラスメイトの長谷川加奈に言った。
「芥川ってイケメンよね」
「ああ、それね」
加奈はホームベース型の顔で黒髪を肩の長さで揃えている、あどけない顔立ちで眉の形が奇麗だ。二人共背は一六〇位でそれなりのスタイルである。
「私も思うわ」
「細面で目鼻立ち整っていてね」
「もう一目見て思う位のね」
「凄いイケメンよね」
「ええ、ただね」
加奈はここで満里奈に話した。
「実はこの人出っ歯だったらしいのよ」
「えっ、そうなの」
「写真全部お口閉じてるでしょ」
「そういえばそうね」
満里奈はその本の芥川の写真をざっと見てから答えた。
「芥川って」
「どの写真でもでしょ」
「お口閉じてるわ」
「ご本人そのこと気にしていて」
それでというのだ。
「どうもね」
「写真撮ってもらう時はなの」
「意識してね」
そうしてというのだ。
「お口閉じてたらしいわよ」
「そうだったの」
「これだけのイケメンで」
加奈はさらに言った。
「東大のね」
「今で言うね」
「英語学科でも凄い秀才で」
「何か試験無しで入学したのよね」
満里奈も言った。
「この人凄いからって」
「もう入試受けるまでもないってね」
「そう判断されて」
「それだけの秀才で」
「滅茶苦茶頭よかったのよね」
「それで教養も凄くて」
加奈は芥川のこのことも話した。
「漢文も英語もね」
「かなり知っていてって書いてあるわ」
「今読んでる資料に」
「そうね、もう学者さん並だったみたいね」
「それでこのイケメンよ」
「ハイスペック過ぎるわね、芥川」
「けれどそんな芥川もよ」
それでもというのだ。
「コンプレックスあって」
「それが出っ歯だったのね」
「そうみたいよ」
「いや、こんなイケメンなら」
満里奈は加奈に真顔で言った。
「そんなね」
「出っ歯位よね」
「そうよ、何だっていうのよ」
「しかも滅茶苦茶頭いいからね」
「学者さん並って」
「けれどよ」
「コンプレックスあったの」
「そうなのよ」
これがというのだ。
「ここまでの人でもね」
「意外ね、頭もよくてなのに」
「それによ」
ここでだ、加奈は。
一転して暗い顔になりだ、満里奈に話した。
「芥川ってお母さんがね」
「あっ、それね」
満里奈も暗い顔になって応えた。
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