暁 〜小説投稿サイト〜
展覧会の絵
第十六話 最後の審判その十二

[8]前話 [2]次話
 その十字にだ。和典は知らないまま述べた。
「悪人っていうからにはね」
「悪だっていうのかな」
「うん、悪いことをするからね」
 悪と同じではないかとだ。十字に言うのだった。
「そう考えられるだろうからね」
「ではいいんだね」
「うん、いいと思うよ」
 こう十字にまた言った。
「というかね。悪を憎まないと」
「世の中は成り立たないね」
「いいことしないと駄目だからね。それに」
「それに?」
「悪人を何とかすることもやっぱりいいことだよ」
「そのことは確信しているよ」
 だからこそ何の容赦もしないのだ。十字の冷徹さと残虐さの根拠にはそれがあった。神、そしてキリスト教に対する絶対の信仰があるからだ。
 それ故にだ。彼は和典に答えるのだった。
「正義とはね」
「悪人を懲らしめることでもあるよね」
「懲らしめる。それはないね」
 少なくともだ。十字の中にはだった。
「裁きの代行。それをするだけだよ」
「ううん、前に描いていたミケランジェロの絵かな」
「裁きは神が為されその代行」 
 それこそが十字の務めだった。そうしたことを話してだ。
 そのうえで彼は一枚の白いキャンバスの前に座った。そのうえでだ。
 和典にだ。こう言ったのである。
「それは素晴しい務めだよ」
「そうなるのかな。それでだけれど」
「何かな」
「今度は何の絵を描くのかな」
 和典は絵のことを十字に尋ねた。彼がこれから描く絵について。
「これからは」
「うん。それはね」
 和典に対して絵の具や筆を出しながら話していく。彼はまた絵を描く。彼が描く絵はかなり多かった。そしてその絵を描きながら彼は己の務めのことを考えるのだった。


第十六話   完


                          2012・5・20
[8]前話 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ