第三章
[8]前話
「薩摩から」
「薩摩、あの国からか」
「さらに」
「聞いたことがある、鬼界ヶ島の南西にだ」
業平も話を聞いて述べた。
「さらにだ」
「島々があると」
「そう聞いているが」
「そちらのことは」
「まさかそなた」
「蓬莱は何処にあるか」
思わせぶりな笑みのまま言ってきた。
「異朝から見て東にあるとなると」
「あの島々もか」
「そうなりませぬか」
「ではそなた」
「どう思われますか」
「察するであろう」
業平は女に笑って応えた。
「そのことは」
「左様ですね」
「そういうことか、蓬莱の島とはな」
「確かにあり」
「そなたはそこから来たな」
「そうなのです、そのことを貴方様にお伝えします」
「そのこともわかった、蓬莱は確かにあるのだな」
この世にとだ、業平はあらためて述べた。
「そうだな、そして」
「そしてですか」
「そなた徐福殿の」
「そこまではわかりませぬ、どうもあの方は」
「本朝でだな」
「お亡くなりになったとか」
「紀伊にお墓があるな」
業平はこのことも知っていて述べた。
「ではそなたがいる島に赴き」
「本朝に行かれたかも知れません」
「そこでお亡くなりになられたか」
「そうかも知れません」
「その辺りはわからぬな、しかし蓬莱があるとわかったことだけでな」
女に今度は笑って話した。
「よしとしよう」
「そう言われますか」
「そしてこの話は余に伝えよう」
こう言ってだった。
業平は女が都にいる間面倒を見て帰りの船の手配もしてやった、そして摂津の港で女を見送ってからだった。
世の者に蓬莱とそこから来たという女のことを伝えた、するとだった。
この話は何かと変わって伝えられた、そうして竹取物語にも入ったという。平安の日本に伝わる古い話の一つである。
蓬莱人 完
2022・9・14
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