第一章
[2]次話
平安の夜に
この時源氏の君は都の屋敷で月夜に庭を見て仕える者達に対してこんなことを言っていた。
「よい月夜に庭であるな」
「全くです」
「これもまたいいものです」
「夏は夜といいますが」
「その通りですね」
「そうであるな、こうして見ているだけで風情があり」
そしてと言うのだった。
「涼しくなったことを感じてもな」
「いいものですな」
「夏の夜というものは」
「実に」
「そうであるからな」
だからだというのだった。
「夏はこうしてな」
「夜にですな」
「空と庭を眺める」
「それがですか」
「実によい。では琴や笛で楽に興じ」
そうもしてというのだ。
「歌も詠むとしようか」
「では舞もですか」
「それもされますか」
「今宵は」
「夏の風雅を楽しむとしよう」
こう話してだった。
君は周りの者達と共に楽に和歌、舞を楽しみ酒も出した。そうして夏の夜を楽しんでいたがその時にであった。
ふとだ、夜空にだった。
何かが漂っているのを見た、君は月を背にそうしているものを見て言った。
「あれは何か」
「!?あれは」
「何か飛んでいますな」
「梟でしょうか」
「それとも蝙蝠でしょうか」
「夜に飛ぶものとなりますと」
「どちらでもないのではないのか」
怪訝な顔になってだ、君は周りに応えた。
「これは」
「といいますと」
「一体何ででしょうか」
「何か漂っていますが」
「あれは」
「わからぬ。わからぬが飛んでおる」
このことは間違いないと言うのだった。
「そのことは事実だ」
「左様ですね」
「そのことは間違いないですね」
「梟でも蝙蝠でもないですが」
「それでも」
「私にもわからぬが」
月明かりを頼りに飛んでいるものを見ながらさらに話した。
「鳥でも蝙蝠でもないな」
「よく見れば丸いですな」
「球の様です」
「さて、一体何か」
「あれは」
「あやかしでもないか」
君はその可能性も考えたがすぐに違うとわかった。
「これは」
「そうですな」
「そうでもないですな」
「あれはまた」
「違いますな」
「あの様なあやかしは聞いたことがない、霊でもない」
その可能性も否定した。
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