第四章
[8]前話
「作ってきて完成させたものだから」
「思い入れがありますね」
「だから保管して欲しいから」
「こちらの博物館にですか」
「しっかりした博物館だし」
自分が長年勤務していただけにこのことはわかっていた。
「だからね」
「それで、ですか」
「預けたいんだ、いいかな」
「そのお気持ち受けました」
確かにとだ、バッキーは笑顔で答えた。
「それでは」
「うん、頼むよ」
「確かにお預かりします」
笑顔のまま再び答えた、そしてだった。
バッキーはスコットから彼が妻と共に完成させた博物誌を受け取った、そしてそれを博物館に置いて展示もして。
複製本の閲覧も出来る様にした、バッキーはその博物誌を前にして博物館に入ったばかりの若い学芸員に話した。
「この博物誌はそうしたものだよ」
「ご夫婦で長い歳月をかけて作って」
「そして完成させたね」
「まさにご夫婦の全てですね」
「学術的にも優れたものだけれど」
そうした出来でというのだ。
「そしてね」
「そのうえで、ですか」
「お二人の想いがね」
それがというのだ。
「これ以上がないまでに入った」
「そうしたものですか」
「そうだよ、だからね」
それでというのだ。
「この博物館で預かったし」
「これからもですね」
「大事に保管して」
そうしてというのだ。
「複製本を読んでもらって」
「そうしてですね」
「お二人の全てをね」
六十年、それだけの歳月をかけたものをというのだ。
「知ってもらおう」
「そうしますか」
「それもまた学問だよ」
「世の中にあるものを知って研究するだけでなくて」
「人のことも知る、人には心やこれまでしたこともあるから」
人の中にというのだ。
「こうしたこともね」
「学ぶべきですね」
「そうしていこう、ではこれからもね」
若い学芸員に優しい笑顔で話した。
「宜しくね」
「はい」
若い学芸員は明るい声と表情で応えた、そうしてだった。
スコットは彼のその声と表情を見て自分も笑顔になった、そしてこの日も勤務した。夫婦の全てもあるその博物館の中で。
二人の博物誌 完
2022・9・17
[8]前話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ