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茶の方が
第二章

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「これはよい土産であるな、礼を言うぞ」
「あの、どうもです」
 宣教師の先頭の座に座っているルイス=フロイス赤茶色の髪と髭の主長い顔に青い目の彼は言った。
「織田様は以前の時計や地球儀より」
「あの二つは今も大事にしておる」
 信長はフロイスに笑って応えた。
「よいものであるな」
「それは何よりですが」
「あの二つを貰った時よりもか」
「上機嫌に見えますが」
「菓子にな」
 それにというのだ。
「茶が大好きであるからな」
「だからですか」
「そうじゃ」
 それでというのだ。
「お主が言う通りにな」
「喜ばれていますか」
「甘いものそれに茶を見るとな」
 そうすればというのだ。
「昔からじゃ」
「今の様に喜ばれますか」
「顔や物腰に出るのう」
「殿は昔からそうですな」
 信長に長年それこそ彼が子供の頃より共にいる池田恒興が言ってきた、信長よりやや背が低く謙虚な感じである。
「甘いものそれにです」
「茶に目がないな」
「そうでありますな」
「逆に酒はな」
 信長はこちらについてはだった。
 繭を曇らせてだ、こう言った。
「まさに一口でな」
「それだけ飲んでも」
「すぐに酔ってしまう」
 そうなるというのだ。
「もう匂いだけでじゃ」
「充分ですな」
「他の者が飲めばよい」
 酒はというのだ。
「それはな」
「宴の時もですな」
「権六達が多く飲む」
 控えている家臣達の中で最も大柄で逞しい身体つきをした見事な濃い髭の男を見てそのうえで笑って話した。
「それでよい」
「ではです」
 フロイスはその話を聞いて信長に言った。
「南蛮の酒も」
「あれであるな、葡萄で造った」
「その酒ですが」
「紅い血の様な酒か、興味深いが」
 それでもとだ、信長はフロイスに応えた。
「見るだけでよい」
「そうですか」
「飲もうと思わぬ、匂いだけでじゃ」 
 それを嗅ぐだけでというのだ。
「もうよい」
「そうなのですか」
「わしはな」
 こう言うのだった。
「それでよい」
「そうですか」
「遠い異国からわざわざ持って来てもらったものだが」
 それでもというのだ。
「飲めぬものは飲めぬからな」
「だからですか」
「献上されてもな」
 そうなってもというのだ。
「わしは飲まぬ」
「左様ですか」
「それで前に殿に頂きましたが」
 また池田が言ってきた。
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