暁 〜小説投稿サイト〜
魔法絶唱シンフォギア・ウィザード 〜歌と魔法が起こす奇跡〜
GX編
第144話:消える灯を嗤う道化
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。傷だらけの彼の顔に、キャロルは必死に呼びかける。

「ハンスッ!? ハンスしっかりしろッ!? ハンスッ!?」
「ぅ……キ……キャロ、ル……?」
「あぁ、そうだ! 私だ、ハンスッ!」

 薄っすらと目を空けて自分の存在を確認してくれたハンスに一瞬キャロルの顔に安堵が浮かぶ。

 だが、次のセリフでキャロルの顔は凍り付いた。

「ハン、ス? 誰だ、それ?」
「え…………?」
「あぁ、でも、良かった。キャロルが、元気そうで……。お前が居れば、俺は、何もいらない……」

 もうハンスの中に、焼却できる想い出は残っていなかった。彼は自分と言う存在に関わる想い出すら焼却していたのだ。今の彼の中にある想い出は、ただ一つ。キャロルと言う存在だけであった。それだけは彼は死守したのである。彼女の存在が、今の彼にとっての唯一の希望であるから。その希望を守る為なら、己と言う存在すら消えても構わなかった。

「だから……さぁ、キャロル……こんな世界、さっさと分解しちまおう。俺達から、全てを奪った、こんな……世界……」
「ハンス……ハンス、ハンス……!?」
「だから、誰だよそれ?……俺は…………あ? おれ、は…………おれって、なんだ、け…………」

 徐々にハンスの体から、言葉から力が抜けていく。間近に迫っている彼の死に、キャロルの目からは気が付けば大粒の涙が零れ落ちていた。

「嫌だッ!? 嫌だよハンスッ!? 私を置いて逝かないでッ!? 1人にしないでッ!? パパが死んじゃって、この上ハンスまで居なくなったら……私…………!?」

 見た目は大人なのに、子供の様に泣きじゃくるキャロル。その様子を颯人達は遠目に眺め、同時に本部ではエルフナインが悲痛な面持ちで見つめていた。

「キャロル…………」

 キャロルとエルフナインの繋がりは一方通行であり、キャロルが見聞きした光景や感情はエルフナインには一つとして伝わらない。その筈なのに、死に行くハンスに縋る様に泣き喚くキャロルの姿を見ていると、まるで我が事の様に胸が苦しくなった。それは恐らく、エルフナインの中にも僅かながらハンスとキャロルの過去が刻まれているからかもしれない。

 魔女狩りにより、家族を失ったハンスをキャロルと彼女の父・イザークが拾った時の事。

 断片的にしか存在しないが、ハンスと共に過ごした楽しかった日々。

 そして異端狩りにより、火炙りにされてしまったイザークの姿にともに涙した瞬間。

 それらをキャロルとハンスは共有し、互いに支え合って今日まで生きてきた。それは偏に、イザークが2人に向けた最期の命題があったから。

 だがそれも、間もなく完全に潰える事になる。

「お待たせッ! 皆、大丈夫?」
「マリアッ!」

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