敢闘編
第六十四話 クロプシュトック事件 U
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トック氏が艦隊に同行しているなら玉砕覚悟だろうし、そうでないならあの艦隊は氏の逃走の時間を稼ぐ為に出てきたのかも知れないな…卿はどう見る、ロイエンタール中佐」
俺とロイエンタール中佐の問答を見る金髪の男、ミッターマイヤー中佐の瞳にはさも面白そうな色が浮かんでいた。
「小官も同意見です。しかし、もし情報通りの戦力なら、反逆とは言いながらなんともお粗末ですな」
「はは…ミッターマイヤー中佐も同意見かな?」
「はい。ですが反乱を長引かせる訳にはまいりません。小官であればすかさずアントン、ベルタの両司令を両翼から迂回させてクロプシュトック軍の後背を扼します。そうすれば敵は混乱し、士気は落ち、総崩れとなる事うけあいです。更に後背を取ったどちらかの分艦隊を前進させ、クロプシュトック領に進ませればなお宜しいかと」
その観察は正しい。俺が答えようとするとロイエンタール中佐が先に口を開いた。
「卿の意図は神速にして理に叶うがミッターマイヤー、今回ばかりはせっかちと言われかねんぞ」
「何故だロイエンタール、犠牲も少なく一挙に片を付けられると思うが」
「それではノルデン学芸省総務局長の出番が無くなるだろう。ノルデン伯爵とてわざわざここまで征旅たもうたのだ、簡単に両司令が勝敗を決められては手柄を取られたと騒ぎかねまい…違いますかな、大佐」
「…と両名は申しておりますが、参謀長」
「俺に振るな」
そう答えた参謀長も俺と同じ様に笑っていた。
確かな戦術眼を持つミッターマイヤー、それに加えて政治的思考も出来るロイエンタール…この二人は当初アントン、ベルタの両分艦隊に配属されたが、キルヒアイスが別任務で下艦した穴を埋める為に、臨時に艦隊司令部に配置した。キルヒアイスは少佐…人事上まだ少佐のキルヒアイスの穴埋めに両中佐を持ってくるのは行き過ぎではないかとも思ったが、俺としても自分の推薦した者達が本当に推薦に値する実力を備えているのか…実際に自分の目で確かめたいという気持ちもあった。だがそれは、どうやら杞憂に終わった様だ。参謀長もこの会話で彼等の能力を把握した事だろう……何やらオペレータ達がざわついている、何かあったか?
「両分艦隊より通報…右翼アントン分艦隊の四時方向および左翼ベルタ分艦隊の八時方向に熱源感知、距離それぞれおよそ七百光秒…熱源の総量からそれぞれ五千隻程の集団の可能性大、との事です」
両分艦隊からの報告が示す事実は明白だった。どうやら我々は三方向から敵に包囲されつつある。
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