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星々の世界に生まれて〜銀河英雄伝説異伝〜
敢闘編
第六十四話 クロプシュトック事件 U
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たが、本社と思われる建物は無人でした。いわゆるダミー会社です。判明している事実は以上になります」
ハウプトマン中尉の報告が終わると、名残惜しそうにナプキンで口をぬぐっていた大尉が大きくため息を吐いた。
「…黒ですな。真っ黒ですよ少佐」
「経歴だけで分かるのですか、大尉」
「ええ。まず彼は孤児だ。その一点だけでもこの帝国では公職には就けません。ましてや宮中となると絶対にそんなことはあり得ない」
「みなし児…というだけでですか」
「はい。どこぞの家庭に養子に入ったとかならともかく、孤児という身分では絶対に有り得ない。『劣悪遺伝子排除法』の適用枠ですから」
「しかしあの法は…」
「有名無実化している、というのでしょう?確かに有名無実化しています。ですが無くなった訳ではない。各官庁出入りの委託業者ならともかく、直接雇用される事は有りません。ましてや侯爵夫人は皇帝陛下の寵姫です。雇おうとしただけで夫人は宮内省から文句をいわれますよ」
「しかし経歴が示している事実はそうではない…」
「はい。宮内省の採用担当者が買収されているのでしょう。そして買収した人間はプロではない。プロならあんな杜撰な経歴は用意しません。多分、経歴は本物でしょう。グレーザー医師本人は何故自分が雇われたのか、よく分かっていないと思いますよ」
「という事は手紙を書いたのは本心から怯えたから、という事でしょうか」
「…そうかも知れませんし、そうではないかも知れません。いずれにしても次の接触は中尉だけではなく、我々も同行しましょう」
「そうですね」
再び彼等は夕食を再開した。二人の食欲を見ていると、とても食事をする気分にはなれない。勿論それだけではないが…。今日はこのまま退散するとしよう…。



6月17日03:00
トラーバッハ星系近傍、銀河帝国軍、討伐艦隊、
旗艦ノイエンドルフ、艦隊司令部、
ラインハルト・フォン・ミューゼル

 通信オペレータが金切り声をあげた。
「ノルデン艦隊より通報、艦隊正面にクロプシュトック艦隊と思われる集団を発見。およそ五千隻、我との距離、約六百光秒、指示を乞うとの事です!」
一気に艦橋内の空気が一変する。
「意外に早く出てきたな。参謀長、アントンとベルタに連絡、現状維持しつつ旗艦からの命令を待つように、と。それからノルデン艦隊に連絡、艦隊速度微速にて前進せよ」
「はっ」
参謀長が目配せすると体操選手を想像させる均整の取れた体格のの中佐が動き出す。その姿を見て、黒髪の両目の色の違う中佐が俺の傍らに近づいて来た。
「大佐、敵の意図をどうご覧になりますか」
黒髪の中佐がそう言い終わらないうちに金髪の中佐も近づいて来る。
「そうだな…彼等には後がない。彼我の戦力差は隔絶している事は向こうからも確認出来た筈だ。…クロプシュ
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