敢闘編
第六十四話 クロプシュトック事件 U
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すと…執事や使用人は長年仕えている者が多く、口が固いと考えたのです。その点グレーザーという男は夫人の下に出仕してまだ日が浅く、それほどの忠誠心はないだろう、と判断しました」
「分かりました、続けて下さい」
「目星を付けた通り、投書の主はグレーザーでした。彼は侯爵夫人に仕えた事を後悔している様です。実入りはいいものの、身を滅ぼしかねない、と憔悴しきっていました」
フェルナー大尉はこちらを見ようともせず、ローテプェッファーをつまみながらTVのワイドショーに釘付けになっていた。中尉からの報告は事前に受けていたのだろう、私が何を質問し、どう判断するか試しているのかも知れない。
「彼は何か、具体的な事を口にしましたか」
「はい。グリューネワルト伯爵夫人を宮中から追い出す方法について相談、いや命令に近い物の実行を迫られたと」
「それはどういった内容ですか」
「伯爵夫人の毒殺、それが無理ならまことに畏れ多き事ながら、陛下と伯爵夫人の会食の折に、陛下のお食事に死なぬ程度の劇物を混ぜろ…まだありますが」
中尉はそこで一端言葉を止めて大尉をチラリと見た。
「構いません、続けて下さい」
「…姦通の罪を着せろ、と。下賤の出ゆえ、それが一番似合うと…」
頭に血が上るのが自分でも解る。中尉の報告が事実だとすれば、いや事実なのだろうが、何と言う事を考えているのだろうか。
「…最初はカウンセリングとして侯爵夫人の話を聞いていたそうです。徐々に内容が抜き差しならぬ物になり、怖くなって救いを求めてあちこちに手紙を書いたと」
「…グレーザーという方も災難ですね。たとえ侯爵夫人付とはいえ、一介の医師に可能な内容ではありません」
……そう、可能ではない。たとえアンネローゼ様を妬んでいるとはいえ、家付の医師にそんな事を命じるだろうか…ふと大尉を見やると、大尉の視線は私に向けられていた。そうか、大尉も同意見か。
「中尉、グレーザー氏の身上を洗って下さい。どういう経緯で侯爵夫人の下に出入りするようになったのか。家庭環境、学歴、交遊関係、職歴もです。それと再度、彼に接触して下さい。監視の意味も込めて」
「はっ。ただ、身上、職歴についてはすでに一部を把握しています」
「仕事が早いですね。大尉の指示ですか」
「はい。彼は孤児です。ボーダーザクセン中央大学医学部卒、卒業後、同大学附属病院の勤務を経て、ベーネミュンデ侯爵夫人の専属医となっています」
「孤児、ですか。孤児という境遇で現在の処遇を得るのは並大抵の苦労があった筈ですが…」
「はい。医療機器を製作している企業の私設の奨学金を得ています。その企業自体は帝国内にありますが、出資しているのはフェザーン系列の製薬企業です」
「フェザーンの製薬企業が、ですか」
「はい。登記簿に記載されている住所を実際に調べまし
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