敢闘編
第六十四話 クロプシュトック事件 U
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銀河帝国、ヴァルハラ星系、オーディン、ハウプトバーンホーフ、ブラウンシュヴァイク公爵家別邸
ジークフリード・キルヒアイス
「まあ、くつろいで下さい。まずは腹ごしらえにしましょう」
案内されるがままに連れてこられたこの居館は、どうやら公に支える者達の宿舎らしい。
フェルナー大尉に指し示されたテーブルの上には山盛りのアイスバインとザワークラウト、ローテプェッファーが用意されていた。男所帯だから味より量なのは分かるがこれはひどい。この部屋には私とフェルナー大尉、ハウプトマン中尉しかいないのだ。一体何人分あるのだろう…。二人は軍服の上着を脱ぐと、食事の支度を始めた。ああ、ワインは結構ですよ……私の視線に気づいたのか、大尉は肩をすくめた。
「公爵邸で戴いた物です、味は保証しますよ」
違う、そうじゃない、そうじゃないんだ……。
宮内省では、改めてブラウンシュヴァイク公の持つ権力の大きさを感じさせられた。宮内省の役人達は寵姫の弟の幼なじみのいち少佐の顔など誰も覚えていなかった。だが、フェルナー大尉とハウプトマン中尉の顔は知っていた。上手く取り入ろうとする節さえ見てとれたのだ。フェルナー大尉達が居なければ、聞きたい事の一割も聞き出せなかっただろう。
「宮内省は静観、というか関わりたくない、という態度が見え見えですね。妾同士の寵争いなどいつもの事、しかも一方の御仁はベーネミュンデ侯爵夫人だ、慣れっこになっているのでしょう」
「慣れっこになっている…とはいえ、寵姫間の争いは宮廷内の混乱に繋がりませんか?」
私の反論にフェルナー大尉は口を動かしながら答えた。
「意外な事に、侯爵夫人は声は大きくても政治には口を出しません。まあそれはグリューネワルト伯爵夫人もそうですが。言ってみれば、ただの痴話喧嘩ですな。陛下が何か指示をお出しにならない限りは宮内省は動く事はないし、関心を持つ事はない、と言う事ですね」
確かに大尉の言う通りだ。だが害意、殺意となると痴話喧嘩では済まないのではないのだろうか。
「…少佐は、周囲を探るべきだ、と仰っていましたね」
「はい」
「中尉、判った事を少佐に報告しろ」
ローテプェッファーには目もくれず、黙々とザワークラウトばかり食べていたハウプトマン中尉はその手を止めると、姿勢を正してこちらに向き直った。
「グレーザーという侯爵夫人付の医師がいます。彼に会って話を聞きました」
「何故、その人物に目をつけたのですか」
「はい。宮内省に行った後、侯爵夫人の元に出入りする人物のリストを大尉より渡されました。そこにに彼の名前がありました。医師という立場上、侯爵夫人の邸宅に常勤しているか、往診の機会は多いと思ったのです」
「そういう条件であれば、使用人や執事に話を聞こうとは思わなかったのですか」
「リストを散見しま
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