敢闘編
第六十四話 クロプシュトック事件 U
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の間に我々が二分した艦隊を両翼から進ませクロプシュトック艦隊を包囲体勢に置く…こちらはノルデン艦隊と合わせ二万隻、完勝だな」
全くその通りだ。戦史の教科書に載せてもいい位の包囲殲滅戦。任務とはいえ何故この様な戦いをしなければならないのか。情報通りならクロプシュトック氏は勝算のない反乱をしたことになるが…いくら皇帝を、あの男を憎んでいたとはいえ、算術の初歩も出来ないのだろうか…思わず口にせざるを得ない。
「情報通りの兵力である事を祈るばかりです」
「そうだな参謀長。しかし、味方を討つ事になるとはな…いや、既に味方ではなかったか」
伯爵の顔には憂慮の色が濃く映っていた。
「…畏れながら、クロプシュトック氏はそれほど迄に陛下の事を憎んでいるのでしょうか」
伯は腕を組んで遠い目をした。
「…今回の出征の前にブラウンシュヴァイク公から色々と聞いた。公もまだ若く、公爵家の名跡を継いだばかりの頃だ。当時はまだオトフリート五世陛下の治世中で、後継者争いの真っ最中だった。皇太子は三人、リヒャルト殿下、クレメンツ殿下、そしてフリードリヒ殿下。当時のクロプシュトック侯はクレメンツ殿下の支持者だった。畏れ多い事だが現皇帝陛下のフリードリヒ殿下は当時から放蕩者で、後継者レースから外れている情勢だった。だがリヒャルト殿下が亡くなられ、残った二人で次期皇帝の座は争われる形になった。当然クロプシュトック氏はフリードリヒ殿下を貶め、嘲け笑った。しかしクレメンツ殿下も亡くなられ、残ったフリードリヒ殿下が至尊の座に就かれた。当然クロプシュトック氏は遠ざけられる形になったが、これはフリードリヒ四世陛下よりグリンメルスハウゼン侯やリヒテンラーデ侯が強く望んだ結果らしい」
「…では陛下よりそのお二人を恨むのが筋ではないのですか」
参謀長の疑問はもっともだ。俺もそう思う。
「そうだな。だが至尊の座についたとて二人の兄…前皇太子殿下二人が亡くなられた後だ、陛下もこれ以上の宮中の混乱は避けたかったのだろう、お二人の意向ということではなく、陛下自らが手を下す、という形になったそうだ。まあ、怨恨にも無頓着なお方の様だから、ご自分に向けられるそういう感情は気になさらなかったのだろう」
無頓着か…そして無気力にも見える、灰色の老人…。
「そして現在に至る、という訳ですか」
「そうだな。そしてクロプシュトック氏は息子達も戦死、敵の叛乱軍共も憎かろうが、その結果を引き起こしたのは陛下…と短絡的に考えてもおかしくはない」
「救いの無い話ですな」
「…私はともかく、卿等は気にせずともよい。任務を果たす事だけを考えてくれ。クロプシュトック氏の後は叛乱軍とも戦わねばならんのだからな」
「はっ」
そうだ、こんなどうでもいい戦いは早く終わらせねば…。
6月10日18:00
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