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第六十話 合宿を前にしてその十一

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「それでよ」
「さらに日本のこと知ってもらうから」
「だからね」
 それでというのだ。
「尚更よ」
「日本を好きになってもらうのね」
「そういうことよ」
「江田島に行くのはそうした意義もあるのね」
「ええ、ただね」
 ここで母は考える顔になって話した。
「お母さんが思うにね」
「どうしたの?」
「いえ、普通にね」
「普通に?」
「靖国にどうとか言う人はね」
「戦犯が祀られているとか」
「そうしたことを言うのは」
 これはというのだ。
「わからないわ」
「戦犯ね」
「あんたも聞いたことあるでしょ」
「ええ」
 一華は考える顔になって答えた。
「ネットでね」
「昔はもうマスコミがね」
「物凄く言ってたのよね」
「そうだったのよ」
 これは昭和の末からのことだった、尚それまでどのマスコミも学者もそうしたことは一切言っていなかった。
「昔はもっとね」
「そうだったの」
「けれど戦犯って言うのも」
 これもというのだ。
「考えてみればね」
「おかしいわよね」
「それは極東軍事裁判からよ」
 二次大戦の後のそれである。
「言われてるけれど」
「あの裁判おかしいのよね」
「何かと言われてるのよ」
 そもそも裁判の不遡及の原則に反した事後立法である、しかもナチスの犯罪行為に基づいて日本の多分に捏造が入った戦争犯罪を裁いた無理のある裁判だったのだ。
「その裁判でよ」
「言われてることだから」
「それでね」
 その為にというのだ。
「戦犯っていうのもね」
「おかしいことね」
「だって裁判自体がおかしいから」
 事後立法がそうであることは言うまでもないことだ、若しこれが許されるなら独裁者が思うままに人間を裁ける。ある法律を定めて過去にそれに違反したと言って捕まえるならばまさに誰でもそう出来るからだ。
「それでよ」
「戦犯もないのね」
「そうなのね」
「だからあんたがね」
「靖国神社に行って」
「参拝してもよ」
 そうしてもというのだ。
「戦犯が祀られているとかね」
「思うことはないのね」
「日本と私達の為に命を捧げた」
「その人達がおられる場所ね」
「神様になってね」
「そう言われると確かにね」
 一華もそれならと頷いた。
「悪い場所じゃないわね」
「そうでしょ」
「ええ、それじゃあ」
「東京に行ってね」
「あの神社にお参りする時があっても」
「素直にね」
 その気持ちでというのだ。
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