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第六十話 合宿を前にしてその四

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「ばれないと思っていても」
「見られていて」
「ばれるのよ、それがよ」
「世の中なのね」
「実際それでばれたお話なんてね」
 誰かに見られていて若しくは聞かれてというのだ。
「幾らでもあるのよ」
「そうしたものね」
「そうよ、隠しごともよ」
「そうは出来ないのね」
「特に悪いことはね」
「だから悪いことは出来ないのね」
 一華はしみじみとした口調で述べた。
「そうなのね」
「そうよ」
 その通りという返事だった。
「まさにね」
「だから悪いことはしない」
「それで隠しごとはする時があっても」
「注意することね」
「ばれないと思ったら」 
 その時はというのだ。
「ばれるものよ」
「悪いことは」
「それで後になってね」
「報いを受けるのね」
「天網恢恢疎にして漏らさずって言うでしょ」 
 この言葉もだ、母は出した。
「そうでしょ」
「お天道様は見ているのよね」
「そうよ、だから浮気してもよ」
「ばれるのね」
「浮気する人ってね」
 そうした人物はというのだ。
「絶対によ」
「ばれないってなのね」
「思ってね」 
 そうしてというのだ。
「やるのよ」
「それでばれるのね」
「ばれない様にしても」
 その様にしてもというのだ。
「結局はね」
「ばれるのね」
「そうよ、むしろね」
「むしろ?」
「昔の偉い人みたいに」
 一華に真面目な顔で話した。
「堂々とお妾さん持ってる方がよ」
「いいの」
「そう、伊藤博文さんとかね」
「あの人有名よね」
「昭和の終わりまで立場がある人は」
 権勢のある政治家なり大企業の社長なりだ、作家も文豪にもなればそうした相手の人がいたものであった。
「そうした人がよ」
「いたのね」
「太宰治さんだってそうでしょ」
「あの人愛人さんと心中してるわね」
「ええ、もう一人の愛人さんとの間にはよ」
「お子さんもいて」
「本当に昔はね」
 昭和の終わり頃まではというのだ。
「それがね」
「普通で」
「むしろその方がね」
「いいのね」
「丹波哲郎さんなんか」
 この俳優はというと。
「隠し子のお話が出てもよ」
「どうだったの?」
「堂々としてたのよ」
「そうだったの」
「皆知ってると思ってたってね」
 その様にというのだ。
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