第三章
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「私は医者です、では」
「お願いします」
「この人を助けます」
こう言ってだった。
春香はその患者に向かった、そしてだった。
懸命に手術にあたりその患者を救った、病院の他のスタッフ達の尽力もあり大事故であったがそれでもだった。
死者は出なかった、春香もそれでほっとしたが。
自分をかつていじめていて不登校にまで追い込んだ患者の話を聞いた、今は主婦として名字は小山となり小さな子が何人もいる優しい妻で母だという。
面倒見がよく誰にも親切でいじめなどしないという、そんな人と聞いて春香は思った。
「過去のあの人じゃないんですね」
「はい、それでその人のご家族とご本人が病室に来て欲しいと」
「行きます」
後輩に答えてその主婦が入院している病室に行くと。
「お母さんを助けてくれて有り難う」
「有り難うございます」
「一生忘れないです」
「本当に感謝しています」
小さいが礼儀正しい子達がお礼を言ってきた、そして。
夫と思われる男性も深々と頭を下げて礼を述べた、だが。
主婦は家族に二人だけにして欲しいと言ってだった、春香と病室に二人だけになると。
涙を流してだ、こう言った。
「私を助けてくれたのね」
「今私は医者だから。過去は忘れていなかったけれど」
「それでもなのね」
「手術出来ないと思ったけれど」
いじめられていた過去があることは言うまでもなかった。
「それでも。人に言ってもらって」
「手術をしてくれたのね」
「そうだったの」
「そうなのね、貴女のお陰で助かったわ」
主婦はベッドの中で上体を起こして春香に話した。
「私がいじめていたのに」
「けれど私は医者だから」
「それでなのね」
「そのことを言われたから」
「わかったわ、今度のことは有り難う、そして」
主婦はここで涙を流した、そしてその場に泣き崩れつつ彼女に言った。
「御免なさい、あの時は」
「いえ、いいわ。過去だから」
春香も涙を流して応えた、暫くしてから主婦は家族に迎えられて退院した。春香はその彼女を見送ったが。
この時にだ、看護師と後輩に言った。
「あの時手術をしてよかったです」
「若しあの時見捨てていたら」
「そうしていたらですね」
「あの人は助からないでご家族は泣いていて」
妻そして母が亡くなってだ。
「そして私もこんな気持ちになれなかったです」
「そうですね」
「本当にその通りですね」
二人もそれはと応えた、そしてだった。
春香はその二人と共に仕事に戻った、そのうえでまた命を救うのだった。
憎い相手が患者で 完
2023・1・25
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