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冥王来訪
第二部 1978年
影の政府
米国に游ぶ その4
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ほくそ笑みながら、
「なあ、涼宮よ」
「はい」
「ユルゲンと同じ研究室と聞いたが……」
「東独軍のベルンハルト中尉とどんな関係ですか。
まさか、あの物凄い美人の妹さんと恋仲なんかに……」

 マサキは、(あき)れた。
世の冷たい風から隠しておくべき妹の写真を、よく知らぬ異国の留学生に見せる愚かさに。
本当に大切な女性(ひと)なら、妻であろうと、姉妹であろうと、また、母であろうと、世の飢えた男達から隠すべきではないか。
 ユルゲンは、己が父が、KGBの操り人形である国家保安省(シュタージ) の策謀で、妻を寝取られた事を忘れたのだろうか。
素晴らしい宝石だからと言って、自慢する様では、強盗犯を誘う様な物である。
 日本人の、東亜的な儒教文化圏で、育ったマサキには、ユルゲンの妻や妹を見せびらかせる神経が理解できなかった。
 よもや、懐妊中の妻の事など話してはいまい……
他人ながら、ベアトリクスの苦労がしのばれた。

 結論から言えば、涼宮は、アスクマン少佐がCIAに売り込んだシュタージファイルの情報を、大統領補佐官を務める教授に見せてもらったのだ。
 教授は、副大統領の弟と一緒に日米欧の若手政治家の懇親会、「三極委員会」の立ち上げメンバーであった。
成績優秀な涼宮を、教授は目にかけて居り、マサキがKGB長官と話した録音テープの真贋鑑定や、機密文書の分析に立ち会う程であった。


「俺の心に、魔法の様に火を点けた……そんな存在さ」
 冷たくあしらわれるかと、内心恐れていた涼宮は、マサキの落ち着いた声を聴いて安心した。
そして、如何にアイリスディーナとの恋が危険かを、情熱を持った口調で話しだした。
「木原さん。ベルンハルト嬢の事を、本当に愛するならば、身を引くべきでしょう。
彼女は、有名すぎる兄の為に、政争の道具として利用されています」
そう言うと、涼宮は胸ポケットよりマホガニーのパイプを取り出し、悠々と燻らせた。

 口惜しいが事実であるのは、認めざるを得なかった。
あの時、ユルゲンが、議長がマサキの気を引くために、アイリスディーナと面会させなかったら、知り合う機会はなかったであろう。
 わずかな事実から、その様な事を見抜くとは……
マサキは、涼宮青年の洞察力に、舌を巻いた。
だが、マサキは、涼宮の忠告を、てんで受け付けなかった。
「お前は俺の事を馬鹿にしているのか。アイリスディーナの俺へ愛が、偽りだというのか」
アイリスディーナの可憐な姿や純真な思いから、その様な策謀に彼女が参加するとはとても信じられなかった。
沈黙するマサキに向かって、涼宮は続ける。
「愛の絆というのは、そんなに(もろ)い物でしょうか。
肌に触れるだけや、一緒に朝を迎えるばかりが、愛の(すべ)てでは、ありません。

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