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隠していた義眼
第二章

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「片目だとな」
「そうした動きになりますか」
「耳でもな、それでさっきの人は耳は兎も角な」
「目はですか」
「左目がな、サングラスの奥には両目があったが」
 土方は擦れ違っただけでそこまで見ていた。
「左目は動いていなかった」
「じゃあ左目は義眼ですか」
「そうだった」
「そうしたこともわかるんですね、武道をしていたら」
「ああ、相手の動きがな」
 それがというのだ。
「わかってくるんだ」
「目や耳から」
「修行をしていったらな」
「凄いですね、武道も」
「だから君もな」
「武道をやるとですね」
「そうしたこともわかってくるぞ」
 鋭い声で話した。
「そのことを覚えておいてくれ」
「わかりました」
 宮田は土方の言葉に頷いた、そして自分達が所属している署に戻った。
 ハイデルベックは家に帰るとサングラスを取った、すると実際にだった。
 右目は青だったが左目は義眼だった、その義眼を取ってケースに入れてから祖国にいる妻に電話を入れた。
「元気かい?」
「ええ、私も子供達もね」
「それはよかった、僕もだよ」
「元気なのね」
「無事にね」
「目の方は大丈夫?」
「うん、何も問題ないよ」 
 電話の向こうの妻に笑顔で答えた。
「義眼の方もね」
「そろそろ慣れてきたかしら」
「いや、まだだよ」 
 妻に今度は苦い顔で話した。
「交通事故に遭って三年経つけれどね」
「あの時に左目を失って」
「それから義眼を入れているけれど」
「まだ慣れないのね」
「自分ではね、けれどどうしてもという時以外は」
「家族以外にはね」
「言っていないよ、それでサングラスをしているから」
 普段はというのだ。
「問題ないよ」
「そうね、気にしてるのね」
「義眼だと意識させるのは好きじゃないから」
 ハイデルベック自身としてはというのだ。
「これからもね」
「隠していくわね」
「そうしていくよ」
 目のことはというのだ。
「それでね」
「日本でも暮らしていくわね」
「ドイツに戻るまでね、じゃあまた電話をかけるよ」
「ええ、待ってるわ」
「それじゃあね」
 夫婦で笑顔で話して後はくつろいだ、自分で作った夕食を食べて風呂に入り寝た。そして朝食を食べてスーツを着るとだった。
 ハイデルベックはサングラスをかけた、そして周りに意識させることを気遣ってそうしてから家を出た。同僚達もサングラスのことは言わずだった。
 お互いに仲良く仕事をしていった、そして彼はドイツから帰ると日本人は気遣いが出来る人が多いと笑顔で言った、サングラスをかけたままそうした。


隠していた義眼   完


                   2023・1・20
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