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隠していた義眼
第一章

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                隠していた義眼
 ドイツから日本に来て研究員をしているアーダベルト=ハイデルベックはいつもサングラスをしている。細面で彫のある顔にドイツ系ならではという金髪をオールバックにしている。背は一八〇を超えていてすらりとしている。
 人付き合いはよくよく同僚達に自分から誘って飲みに行って流暢な日本語で話しながらビールやワインを楽しんで言うのだった。
「日本は暖かくて四季もあっていいですね」
「ああ、ドイツはもっと寒いですよね」
「日本に比べて」
「四季も日本みたいにはっきりしていなくて」
「お花も多く色々な食べものがあって」
 肉だけでなく魚や野菜も楽しみつつ言うのだった。
「素敵な国です、お酒も美味しいです」
「そういえば日本酒も飲まれますよね」
「ビールやワイン以外にも」
「そうされていますね」
「はい、こちらも好きですから」
 こうした話をしてだった。
 ハイデルベックは日本での生活を日本人の同僚達と共に楽しんでいた、紳士でありかつ人付き合いはよかったが。
 人前ではサングラスを決して外さず外す様な場所でも事前に事情があると言ってどうしても事情を話さねばならない時は責任者に秘密にして欲しいと前以てだ。
 話して許可を得ていた、兎角だった。
 彼はサングラスを外さない、それで同僚達は思った。
「やっぱり何かあるね」
「そうですね」
「けれどこうしたことはね」
「プライベートとか事情がありますよ」
「だから詮索しないことだよ」
「決してね」 
 まともな社会人である彼等はこう話してだ。
 ハイデルベックのサングラスのことは言わなかった、彼を気遣ってそうした。
 だがある日のことだ、街を歩いていた彼とだ。
 たまたま擦れ違った警官で柔道八段空手七段の警視庁きっての猛者でありならず者達を何度も倒してきた土方御舩四角い顔で鋭い目をして白いものが混じってきている髪の毛を持つ長身で引き締まった身体の彼は共にいる若い警官に言った。
「あの人左目が見えないな」
「わかるんですか」
「動きでな」
 それでというのだ。
「わかる」
「そうなんですね」
「どうしてもな」
 土方は若い整った面長の顔の新入り警官宮田雄吾に話した。
「人はものを見て動くな」
「はい、やっぱり」
「耳や鼻も使うが」
 そうしたものも用いて動くがというのだ。
「やっぱりな」
「まず目ですね」
「見たものに基づいて動くな」
「だったらですか」
「両目が見えていたらそうした動きになってな」 
 そうしてというのだ。
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