第二章
[8]前話
「やはり大事になることがあります」
「そうですよね」
「こけただけとはです」
「言えない時もありますね」
「特にご高齢になると」
「六十、還暦を超えると」
「そうですね、お年寄りと言われる位になると」
医師は夫に応えて話した。
「お気をつけく下さい」
「では今回病院に行ったことは」
「大袈裟ではないです」
決してというのだ。
「まことに」
「そうですか、また何かあれば」
「すぐにですね」
「診てもらいます」
「そうして下さい、ご主人もです」
医師は夫にも話した。
「ご高齢なのは同じですから」
「だからですね」
「若い時も用心しないといけないですし」
こけただけと思わないでというのだ。
「特にです」
「歳を取ったら」
「くれぐれもです」
注意して欲しいとだ、こう話してだった。
夫婦は病院を後にした、妻はそのまま歩きながら夫に言った。
「平日のお昼でね」
「それでか」
「お互い定年してね、何もなくて」
「後はあの世に行くだけか」
「そう思っていたら」
そうした時にとだ、夫に微笑んで話した。
「こんな気遣い受けるなんてね」
「気遣い?」
「病院に行くぞなんて」
「何か気遣いだ」
これが夫の返事だった。
「こんなことは当然だ」
「そうなの」
「夫婦だぞ」
だからだというのだ。
「それならな」
「当然なの」
「そうだ、またこけたり何かあったらな」
「病院に行くのね」
「一緒にな」
「そう言ってくれるのが嬉しいの」
また微笑んで話した。
「私はね」
「何が嬉しいんだ」
「私が女だからかしらね」
「それでか」
「そうよ、じゃあこれからね」
微笑みをそのままにして言った。
「お家に帰りましょう」
「ああ、帰ったらお茶を飲むか」
「煎れるわね」
「自分で煎られるぞ」
「私が煎れるから、今回は」
「どうしてもか」
「ええ、いいかしら」
夫に顔を向けて尋ねた。
「そうして」
「そうか、お礼か」
「ええ、気遣ってくれたね」
「いつもだろ」
「いつもでもよ」
それでもというのだ。
「嬉しかったから」
「それでか」
「そうさせてもらうわ」
「わかった、じゃあな」
「帰ったらね」
夫に微笑んで言った、そして夫も微笑んでそれを受けてだった。
二人で家に帰った、そうして妻が煎れた茶を二人で飲んだのだった。
少しこけただけでも 完
2023・1・19
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