第五十五話 本当の勇気その十一
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「恥知らずもいいところでしょ」
「自分を尊敬しろなんて言うとか」
「他の人に。それも真剣にって」
「本当に自分はそんなに偉いか」
「誰だって自分を振り返るとあれでしょ」
一華はこうも言った。
「恥の多い人生を送ってきたってね」
「太宰治だね」
彼が人間失格で書いた一文だ、この作品は太宰が心中で世を去るその前に自伝の様に書いた作品でそのまま太宰の人生を書いている。
「俺この前読んだよ」
「あの作品とまではいかなくても」
「太宰も凄い人生歩んでるからね」
何度か自殺騒動を起こし薬物中毒に陥ったこともある。
「あの人はまた特別だよ」
「そうだけれどどんな人でも」
「恥が多いかっていうと」
「そうよね」
「そうだよね、生きていると」
達川はビールを飲んでから焼きそばをすすって答えた。
「何かとね」
「恥をかいてね」
「悪いこともしてね」
「後悔もするしね」
「自分を駄目だとも思うね」
「振り返るとそうよ」
自分自身をというのだ。
「それで自分を尊敬しろなんてね」
「言えないね」
「自分を振り返ることがないから」
生きていてというのだ。
「そう言えるけれど自分を振り返らない人って」
「反省しないからね」
「自分のやったことを見て」
それでだ。
「人は駄目だって思ってね」
「反省するね」
「そうしたことをしないから」
それ故にというのだ。
「絶対に成長してなくて」
「碌でもない人だね」
「そうした人だからよ」
「そんなことが言えるね」
「だからそんなこと言う人は」
まさにというのだ。
「もう逆に軽蔑される様な」
「そんな人だね」
「もうあまりにも人間性が酷くて」
それでというのだ。
「屑みたいじゃない?」
「もうそんなこと真顔で言ったら」
「そこまでなっているから」
「言って」
「そしてね」
そのうえでというのだ。
「軽蔑されるのよ、だからね」
「そんなこと言う人になるとか」
「絶対に嫌よ」
それこそというのだ。
「というか尊敬されるって怖くない?」
「あっ、それわかるよ」
達川は一華の今の言葉にまさにという声で答えた、
「俺も」
「わかる?」
「うん、尊敬されると期待されている」
「そういうことよね」
「その期待を裏切るってね」
「怖いわよね」
「裏切った時怖いよ」
その期待をというのだ。
「本当にね」
「チャンスで三振とかあるわね」
「俺ピッチャーだからここぞという時にホームラン打たれるとか」
そうしたことになればというのだ。
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