人の着替えの場所なんて分かるわけない
[1/6]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「……」
可奈美は、静かに自らの胸を掴む。
誰だったかは分からない。だが、夢で出会った人物の言葉が、胸に突き刺さっていた。
ただ。
「……思い出せない……」
何を言われたのか。誰に言われたのか。
ただ、薄れゆく意識の中、その言葉に強く衝撃を受けた記憶はある。
「……何だったんだっけ……?」
ただの夢とは思えない感覚に、可奈美はベッドから降りられなくなっていた。
だがすぐに、ドアが鳴る。
「ハルトさん! ハルトさん!」
聞こえてくるのは、本来は自分の肉声。
いつもとは異なる感覚に少しだけ違和感を覚えながら、可奈美はドアを開く。
「ハルトさん! 外! 出よう!」
ハルトは可奈美の体にしがみつく。
「おはよう、どうしたの? 何でこんな、朝早くに……?」
可奈美は目を動かして目覚まし時計を見やる。
朝六時。
「六時!?」
朝番のシフトが入っているならばまだしも、今日は確か可奈美のシフトは夕方だった記憶がある。そして、本来自分の体であるハルトは、逆に午前がシフトではなかったか。
「何で起こすのさ……色々整理していて眠いんだけど……」
「マラソン行くよ!」
「ま……マラソン!?」
ハルトは勢いよく手を叩く。
「ほらほら! 剣術も体術も日々の鍛錬が大事! 入れ替わったからってサボっちゃうと、一気に体がなまっちゃうよ! 特に今の私の体はそっちなんだから!」
「中身は俺だから、無駄に疲れるんだけど……」
「私もやるから! ハルトさんもやるの!」
ハルトはねだるように、可奈美の肩を揺らす。本来であれば微笑ましいものなのだろうが、姿見鏡に映っているのは、長身の青年が華奢な少女を無理矢理ベッドから起こそうとしているというどの観点からしても誤解を生みそうなものだった。
「分かった! 分かったよ!」
ココアたちが起きてくるよりも先に、可奈美は跳び起きた。
「ふう……」
「あれ? ハルトさん、パジャマに着替えてないの?」
「ん?」
可奈美は、自らの身を見下ろした。
今の服装は、昨日、ラビットハウスのシフトを終えて着替えた可奈美の私服そのままであり、寝間着にはなっていなかった。
「え? 嘘、ハルトさん、私の服ずっと着てたってこと?」
「そんなに驚くことないでしょ」
「驚くよ! なんか……その……」
「言っておくけど、今は俺が可奈美ちゃんで、そっちがハルトだからね? イヤらしい発想をするのはその点を考慮した上でお願いね?」
「……」
ハルトが顔
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ