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剣の丘に花は咲く 
第五章 トリスタニアの休日
第六話 キス!?! キス?!? 
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要があった…………だから少女は……自分を捨てた」
「す、てた?」
「愛する祖国と民を守るため……少女は成らなければならなかった……誰もが待ち望んだ『王』に……公明正大、戦えば常に勝利する王……『理想の王』に……そのため、少女は祖国に全てを捧げた……性別を隠し女を捨て……」
「全てを捧げ……『理想の王』に……その少女は……王になってどうなったのですか」

 大きく息を吸い、長く息を吐き。
 そして、
 
「諸侯を纏め上げ、常に前線で戦い侵略者を追い返すことに成功した王に、やがて騎士としての理想を、憧れを、願いを……到達点を見た騎士たちから『騎士王』と呼ばれるようになった」
「……『騎士王』」
「栄光に輝く王……その最後は……裏切りによるものだった」
「えっ……うら、ぎり……」

 アンリエッタの口から漏れた言葉は、雨音に交じり消えていき、士郎の耳を掠めただけだった。

「最も信頼していた部下の一人に裏切られた王は、裏切り者を許さずという周りの声を止めることが出来ず、国を割った争いが起きた。さらに、その混乱に乗じ甥に城を奪われてしまった王は、甥を倒すことは出来たが、その時受けた傷が元で最後を迎えることになった」
「……」

 背中が濡れる感触を感じるが、士郎は何も言わずただ淡々と昔話を続ける。

「……愛する祖国を守るため、己の全てを捧げ王になった少女は、甥の血に濡れる剣を手に、守るはずの祖国の民が騎士が倒れ伏し赤く染まる丘に立ち尽くしていると、心にある想いが湧き上がってきた」
「……それは……なんですか」

 問いかける声は、酷く冷めた平淡な声だった。

「……それは後悔だった……」
「……後悔」
「祖国を民を守るために王になったにもかかわらず……結局は国を守れなかったそんな自分が王になったことに対する後悔……自分よりももっと王に相応しいものがいたのではないか……そんな後悔を……」 

 しばし部屋に雨が屋根を叩く音だけが部屋に響き、次に雨音以外の音を立てたのは、

「その少女は……後悔を抱いたまま死んだのですか」

 硬い声を上げたアンリエッタだった。
 
「王になったことを後悔し、人として……女としての幸せを感じることもなく死んだのですか……」

 何かを恐るように、小さく震える声で士郎に尋ねるアンリエッタに、士郎はアンリエッタの手を一度強浮く握り締めた。

「いや……違う」
「違うの、ですか? でも、彼女はその後直ぐに亡くなってしまうのでしょう? それなのにどうして違うと……」

 士郎の返事が余りにも予想外過ぎ、戸惑うアンリエッタに、士郎はその理由を話し始めた。自分の口元に笑みが浮いていることに気付くことなく。

「夢をみたからだ」
「夢? それは一体……」

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