第五章 トリスタニアの休日
第六話 キス!?! キス?!?
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ない……必ず殺してやる、必ずだ……だが、まずは……」
歪んだ笑みを浮かべ歩き出す。
空を仰ぎ歪んだ笑みを洗い流すと、影は顔を振り馬にまたがった。
「……行くか」
気持ちを切り替えるように小さく呟き、馬の腹を蹴ろう足を振り上げた瞬間。
「待って! 待って!」
「何だ?」
背後から大声を上げ駆け寄ってくる少女がいた。雨の中を走っていたことから、キャミソールは泥と雨で汚れ、ピタリと身体に張り付いている。手に靴を持って駆け寄ってくる少女は、確実にこちらに向かって近付いてきていた。今から大事を控える影にとっては、厄介事に巻き込まれるのは宜しくない。影は背後の迫りつつある少女を無視し、再度馬を走らせようと足を上げるが、
「待ちなさいッ!! そこのあんたよあんたッ! っこの! 待ってって言ってんでしょぉぉぉぉおおおオオオッ!!!」
「っく! クソっ、いきなり何をするっ?!」
後頭部に鈍痛が走り、頭を抱えながら後ろを振り向くと、膝に手をあて息を荒げる少女がいた。少女の手には、先程見た時に持っていた靴がない。視線を下に向けると、予想通り馬の後ろ足の辺りに靴が落ちていた。どうやらこの少女が自分を止めるため投げつけたのだろう。
影は未だ呼吸が戻らないのか、息を荒げる少女を見下ろし、
「貴様っ! 一体何が目的で私を止めるっ!? 話し次第では、無事に済むとは思うな」
「その馬を貸しなさいっ! 急ぎなのよ!」
「寝言は寝て言え」
顔を戻し、駆け出そうとした影だが、馬の前に割り込んできた少女が手に持った羊皮紙を突き出してきた。
「あなたこそ寝言は寝て言いなさい。わたしは陛下の女官よ。この通り警察権を行使する権利を与えられているわ。さあ、さっさとその馬を下りてわたしに渡しなさいっ!」
「陛下の女官……まさかラ・ヴァリエール嬢で」
「? 何故わたしの名前を」
手に持った羊皮紙を下ろし、訝しげな顔で少女が影を見上げる。
「時間がない。後ろに乗れ。事情は後で説明する」
「ちょ、ちょっと!」
「ちっ! いいから乗れ!」
戸惑い躊躇する少女――ラ・ヴァリエール――ルイズを影が馬の上から引き上げると、自分の後ろに乗せた。
「何? 何なのよ? 一体? ちょっ?!」
「口を開くなっ! 舌を噛むぞ!」
ルイズが止める間もなく、影は馬を走らせた。
唐突に馬が駆け出し、ルイズは慌てて影の背中にしがみつく。雨が上からではなく横に変化し、身体が激しく上下する。そんな穏やかとは正反対の馬上で、ルイズは必死に声を上げ、
「っあっ、んたっ、は誰なのっ! よっ!? いいか、げんっ! 教えっなさ、いっ!!」
それに影は応えた。
「陛下の銃士隊隊長のアニエスだ」
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