第一章
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かふかのシフォンケーキをついばむ柚木の視線を追ってみる。時折、ちらっと紺野氏を見上げる。単なる物珍しさか、もっと別の理由か…僕には分からないし、詮索する理由もない。先刻盛大に鼻水を垂らした時点で、僕の恋愛フラグはへし折れたのだから。
「そうだ、姶良。カスタマイズしないのか?」
ぼーっとしているところに急に紺野氏に話しかけられ、慌てて視線を画面に戻す。
「キャラを選択してみろ」
さっき選んだメイドをクリックすると、メイドがアップで表示された。顔の横あたりに「カスタム」と書かれた赤いアイコンが光っている。
「服とか髪の色とか、あと瞳の色なんかをカスタマイズ出来るんだ」
瞳の色……。
「じゃ、変えようかな。瞳の色だけ…」
「…この色、あんまり好みじゃないか?」
…絡むなぁ。何なんだよこのひとは。
『瞳の色』をクリックすると、標準色パレットが表示される。僕はパレットの色を無視して『その他の色』を選択した。虹色のカラーテーブルが立ち上がる。…僕の入れる色は、もう決まっている。僕はカラーテーブルの番号入力欄にカーソルを置いた。
「76ccb3……と」
「それ、さっきのパスワード…」
「そう。僕の好きな色の番号」
彼女の瞳が、優しい空色に変わった。空に、すこし新緑を溶かしたような…淡いようで深い色合い。
チェレステ。ビアンキの伝統色。WEBの商品画像からひっぱって来た、僕の一番好きな色だ。
ビアンキはイタリアの自転車メーカー。車体に使われる緑がかった空色は「チェレステ(天空)」と呼ばれている。毎年ミラノの空の色を見ながら、職人が調合している、とロードバイクの雑誌で読んだ。この逸話を読むまでは「へんな色のチャリ」と思ってたけれど、今はビアンキのロードバイクが欲しくてたまらない。
で、腹が立つことに、柚木はビアンキのロードバイクを持っているのだ。
「おぉ、マルゲリータ王妃の、瞳の色だな」
…この色には、そういう説もある。紺野さんも、自転車が好きなんだろうか。
「……あぁ……まぁ……はい……」
ビアンキ持ってないくせにチェレステにこだわる自分がなんか妙に子供に思えて、気恥ずかしくなってきた。…だけど、チェレステの瞳に変えた瞬間、少女は、なんというか、冬の陽だまりみたいに透き通って、ほんのり温かくみえた。
言おうかどうしようか迷ったけれど、こういう乙女発言でいい目に遭ったことは一度もないので黙っておいた。
…そのあと、細かい色設定や性格設定や声設定など色々聞かれたけれど、面倒なので全部すっ飛ばしてデフォルトで通した。
『決定』ボタンを押すと、少女はくるりとスカートを翻して一回転して、ふわりとスカートのすそを持ち上げると、英国式に一礼した。
「お名前をください、ご主人さま」
イメージにぴった
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