第一章
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パソの画面を僕のほうに向けた。
―――いや、萌えキャラに興奮している時点で、勝ち組とは言えんかもしれない。
画面には、数種類の女の子が並んでいる。デフォルト設定のメイド、気が強そうな猫の耳をつけた女子、変な巻き髪のナース、むだに明るそうな、くい込むような体育着の女子…
僕は反射的にノーパソを閉じた。
「いやいやいや、こんなのがデスクトップをウロウロするとか社会生活に支障が」
「売れ筋のキャラは目立つところにあるんだよ!何ページが進めば大人しいのも出てくるから…とりあえずどれが好みだ!フォースで選べ!!」
「…フォース…」
どうやら紺野氏は、僕が思っているよりも年上らしい。
画面の下のほうに「1/2/3/4……」と数字が振ってある。まだいっぱいいるようだ。面倒だから数個飛ばして4をクリックする。4以降はメイド系のキャラクターが並んでいる。さすが人気ジャンルだ。居並ぶメイドさんは猫の耳やら肉球やらがついていたり、ミニスカートにニーソックス履いてたりする。日本人のメイド観は、アメリカ人の忍者に対する考え方と、よく似ているなぁ……。
そんなことを考えながらカーソルを右下まで漂わせ、ページを適当に切り替えようとしたそのとき、一人のメイドが目についた。
「ん…それか?」
カーソルの先を熱心に見つめていた紺野氏の表情が、わずかに変わった。
淡いすみれ色の、クラシカルなワンピース。少しだけフリルのついた、純白のエプロン。繊細なブロンドのストレート、その下に隠れて静かに光る、黒目がちなブルーグレーの瞳…よくあるといえば、よくある。でもなんというか、全体からかもし出される絵の雰囲気に、かすかに惹かれてマウスを止めた。
「…あ、これがいい。これに決めた」
「えー?もうちょっと見てから選ぼうよー。もっとカワイイのあるって絶対」
不満げにつぶやく柚木と見比べる。さっきから、自分のくせ気をさりげなく引っ張っている。髪の綺麗な子を見ると、柚木はいつも自分のくせ毛を引っ張るのだ。
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先刻、鬼の形相で僕らを追ってきた柚木は、今はびっくりするほど穏やかに、追加注文のシフォンケーキを頬張っている。
さっき紺野氏に、茶封筒を渡されてからというもの、ずっと機嫌がいい。…多分、紺野氏が弁償してくれたのだろう。…返さなきゃな。分割払いにしてもらってでも。…それにしても、不思議だ。
柚木の『上機嫌』の理由が、わからない。
一瞬、ちょっと多めに包んでもらったのかな、といぶかったけれど…
僕がそう思っているだけだが、柚木は『おごられる』のは好きみたいだけど、露骨に金を多めに渡したりしたら、侮辱と感じて機嫌を損ねると思う。あの子は実際に金銭がからむような生々しいやりとりが好きじゃない。要するに、金に困ってないのだ。
ふ
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