第一章
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のに、この男に「やめとけ。今日なんか人でいっぱいだぞ」と腕を引かれ、よく分からないうちに喫茶店に連れ込まれた。目の前で何だか高そうな珈琲が薫っているのに、もう眠りに堕ちてしまいそうだ……
「そういえば、名前を聞いてなかったな」
「ん…あぁ、姶良。姶良 壱樹っす」
あいら いつき、と読む。初見で読める人はまずいない。かっこいいと言ってくれるひともいるけど、画数が多くてテストの時にまどろっこしい思いをする。一木にでもしてくれれば楽だったのに。
「ほぅ、なんか今っぽい名前だな。俺は紺野 匠だ。よろしく」
「染物職人みたいな名前ですね……あ、何言ってんだろ…ごめん、眠くて…」
眠すぎて敬語も億劫になってきた。
「……大丈夫か、疲労困憊ってかんじだな」
「ええまぁ…まさか徹夜で並べって意味とは思わなかったんで、学校から直接来て…」
「漫喫行ってる場合じゃないだろう!寝なくて大丈夫か!?」
「……今日の1限の前に渡せって言われてるんで……」
「なんて奴だ…お前それヤフオクで売っちゃえよ!」
「そういうわけにもいかないでしょ…頼まれたんだから…」
なんとか、意識を保って薄笑いをうかべた。紺野さんが眉をひそめる。…ああ、僕は今、よほど情けない笑い方をしたんだな…
「……よし、じゃあ行くか」
紺野氏が立ち上がった。やっと眠れる。僕はひらひらと手を振って紺野氏を見送ろうとした。
「なにやってんだ。お前も来い」
「……え」
「学校。行くんだろ?おれも付き合おう」
「え、でもまだ7時…」
「いいから来いって」
紺野氏は伝票を掴んで歩き出した。
「お前がもってるそれ、ノーパソだろ」
高校の入学祝に買ってもらった、僕が持つ唯一の貴重品だ。頼れる古い相棒だが、古すぎて最近液晶が黄色っぽい。
「でも、さっき充電きれちゃったよ」
「学校でコンセント使えるだろ」
紺野氏は、振り返ってにやりと笑った。
「駄賃代わりにMOGMOGの中身を拝見するくらい、いいだろ?」
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誰もいない朝の講義室は、まだ暖房が入ってなくてひんやりしていた。なんだか今日はどこに行っても寒い日だ。ノートパソコンのアダプタを差し込んでいると、紺野氏が早速MOGMOGの包装を乱暴に破き始めた。
「あぁ、そんな乱暴にしないでくれよ!渡すんだから」
「いいんだよ、こういうのは中身さえ手に入れば!……じゃ、入れるぞー。じゃじゃーん」
じゃじゃーん、じゃない。紺野氏の後ろには、無残に破られた包装がくしゃくしゃに積まれている。……眠気にかまけて、つい成り行きに任せてしまったけれど、僕はなにをやってるんだ。さっき会ったばかりの男と、他人のソフトを勝手に空けて「じゃじゃーん」とか言いながら自分のパソコンに挿入している……
「お、何か出たね
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