暁 〜小説投稿サイト〜
くらいくらい電子の森に・・・
第一章
[4/10]

[1] [9] 最後 最初 [2]次話
けど、セキュリティソフトに3万5千円はありえない。そんなの絶対出さない」
「ところが出しちゃうんだな、出しちゃう奴は」
男はにやにや笑っている。
「超、かわいいんだよ。MOGMOGは」
「……かわいい?パッケージが?」
「いや、MOGMOGがだ」

MOGMOGが業界新スタンダードと言われる理由はもうひとつある。「対人セキュリティシステム」だ。
 最近、企業内での顧客名簿流出などの事件が大きな社会問題となっている。本当に怖いのは、無作為に知らない人のPCを荒らすクラッカーなんかより、有益な情報であることを知ってPCに近づく「人間」である、という発想から開発されたセキュリティシステム。MOGMOGはいわゆる、仮想人格でもあるのだ。カワイイ女の子の外見をした「それ」は、持ち主とコミュニケーションをとり、付属のカメラから持ち主の「網膜」を識別する。そして持ち主の行動パターン、知人、友人関係も「ぼんやりと」記憶する。そして知人がPCを利用しようとすれば、持ち主のケータイなどにアクセスして使用許可を得る。無論、セキュリティのレベルは調整できるので、あらかじめ数人に使用許可を出しておくことも可能。そして、まったく知らない人間が近寄ると、警戒レベルを上げてPCをロックする。

「そこまで……!」
「しかもMOGMOGは、キャラクターを選択出来る。デフォルトはメイドだけど、スク水とか、女教師なんかがあったかな。あとネコミミとか、体操服とかセーラー服、和服メイドとか、そこら辺の『いかにも』なやつが色々。…美少女がウザければ動物とか、もうカワイイのがウザい人のために、老人とか、カーソルとかもある」
「カーソルごときに人間関係把握されるの、イヤだなぁ…」
「……イヤだなそりゃ」
 でもたしかに、それで3万5千円は安い。買ってしまう人は買ってしまうだろう。でも僕は『買ってしまう人』ではない。ていうか経済的な理由で『買ってしまう人』になれない。…となると何だか、柚木のために新聞敷いて11時間も寒風にさらされている自分が無性に哀れに思えてきて…。聞かなきゃよかった。もうあいつの頼みは聞かない。また膝に顔をうずめる。

「おっ、店が開くぞ!!」
 行列がにわかに色めきたった。シャッターはまだ半開きだが、行列はすでに動き始めている。僕もあわてて立ち上がる。後ろに並んでいた薄黒いオーバーオールの一団から体当たりを受け、おでん缶が飛んだ。「押さないで下さい!」「列を崩さないでください!」警備担当者の怒号にも似た呼びかけが、空しく人波に飲まれていった…


「……はぁ、何とか買えたな……」
人ごみを掻き分け、ほうほうの体で辿り着いた駅前の喫茶店で、男がつぶやいた。肉体的疲労も、精神疲労もMAX……。さっさと漫喫にでも行って仮眠をとりたい…と切に思っていた
[1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ