第六十三話 クロプシュトック事件 T
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すまない、大尉」
「いえ。では参りましょうか」
お互い泊地を離れるまでは無言、泊地を出るとフェルナー大尉は意外な事を口にした。
「つかぬ事をお聞きしますが、少佐はミューゼル大佐の家臣でいらっしゃいますか?」
「は…」
どうなのだろう?私はラインハルト様の家臣なのだろうか?隣人、幼なじみ、しかも大それた野望を持つ幼なじみ…気がついたらラインハルト様と同じ道を歩んでいた。アンネローゼ様を助ける為、あのお方をお守りする為…。
「そう、見えますか?」
「いえ、友人…同志、かけがえのない知己…なんといっていいか分かりませんが、その様に見えます」
「なるほど。まあ、その様な物ですが、家臣と思われても一向に差し支えありませんよ」
「そうですか。となると少佐にとってもグリューネワルト伯爵夫人は大切な方なのでしょうな、いや失礼」
大尉の声色には楽しむ様な、こちらを試す様な響きがあった。
「…これからどちらへ向かうのです?」
「宮内省です。ベーネミュンデ侯爵夫人の内情を調べます。皇帝陛下の寵姫ともなると、勝手に使用人等を雇い入れる事は出来ないのです。暗殺を防ぐ為ですな。宮内省にはその使用人のリストがあるのですよ。それを見れば使用人だけでなく夫人の下に出入りしている業者なども分かります」
「正攻法ですね」
「ええ、まずは正面から。搦手はその後でいい」
そうか。我々が宮内省に出向いて調べる事自体が書簡の発信者への合図になるという事か。宮中はコネだらけの世界だ。こういう行動は秘匿しない限り各所に伝わる。それは当然侯爵家にも伝わる…。
「侯爵夫人は警戒するのではないですか?」
「害意があるとすれば、ですね。なければ無いで何の為の調査かと思われるでしょう。どちらにしてもこちらに目は向きます、その間はグリューネワルト伯爵夫人の身は安全です」
「大尉は中々の策士の様だ」
「まさか。小官ごときが策士なら宮中は策士だらけですよ。魑魅魍魎、百鬼夜行の世界かもしれませんが」
私は冗談のつもりだったが、大尉の目は笑っていなかった。大尉は軍人とはいってもブラウンシュヴァイク公の直臣にあたる。今回の様な宮廷内の騒動なども目にしてきたのだろう、冗談とは思えないのかも知れない。
「…少佐はあの書簡についてどうお考えですか?」
「女性の妬心というのは恐ろしいと感じました。ましてや皇帝陛下の寵を受けていた方です、周囲にそれを…」
周囲、周囲にこそ目を向けるべきではないのか。
「…分かっています。それを探る為にもまずは宮内省に向かいましょう」
5月27日10:30
オーディン、ミュッケンベルガー元帥府、
ラインハルト・フォン・ミューゼル
ミュッケンベルガー元帥を待つヒルデスハイム伯爵の顔色は冴えない。理由は想像がつく。おそらくクロプシュト
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